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あめふら

Author:あめふら
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pixivで描いた漫画をまとめました。


『OVERCOLL2』 とらのあな
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『レジンフィギュア・物部ハト』

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 二日続いた雨の後で切り取ったような五月晴れの光が窓から店内に射し込んだ。季節は春から初夏への移り変わりを見せ、しぶとく咲き残っていた桜もいい加減に命数を尽かして青葉となった。代わって躑躅が勢力を伸ばし、遠くに望む山は山吹色に染められ、永遠に吹き続ける風が弛まぬグラデーションを生みだしては消していく。魔法の森の緑も深みを増してきた。植物たちは着々と夏へ向けた準備を始めているのだ。
 霖之助は窓を開け、扉もまた半開きにした。時代の降り積もった店の中を新しい風が誘導に沿って流れていく。一時も留まらぬ風はまるで時間そのもののようだ。ただ肌に感じる強弱があるだけだ。

 不意に扉が動いたような気がした。実際動いたらしい。設置されたベルがワルツのように身を揺らしている。
 煽り止めは付けていた筈だ。それに扉を動かす程の風も感じなかった。霖之助は読書の手を止め、扉を確認しに立った。だが眺めたところで新たな発見があるでもない。扉を元通りの角度に直し、煽り止めを挟み直して席に戻った。
 しかしどうも心が落ち着かない。誰かが店内にいるような気がする。霖之助は頬杖を突いて見える限りを見渡してみた。だが誰もいない。やはり勘違いだったのか。霖之助は読書に戻った。

 しばらくして、カラカラと何かが回る音がした。顔を上げてみると、黒いリボンを巻き付けていたドラムが回っている。床には既に何メートル分ものリボンが引き出されており、その中央で紐にじゃれる猫のように動く影があった。
 霖之助は立ち上がり影の隣まで歩み寄ると、片手でドラムを止め、もう片手で影に絡んだ紐を解きながら言った。
「お求めかい?」
 古明地こいしは体中にリボンを巻き付けながらにこにこと笑っていた。霖之助は厳しい顔をしてみせるが、効果が無かったので諦めてリボンをドラムに巻き直した。
 巻き直した端から引っ張り出された。
 そのやり取りを二三度繰り返した後、霖之助は溜息交じりに訊ねた。
「何がしたいんだ、君は?」
 こいしは答えずにまたリボンを引っ張って笑った。
 聞こえていないのだろうか?
「リボンが欲しいのかい?」
 やはり返事はない。霖之助はとりあえずリボンを一メートル分切り出し、こいしの目の前で振ってみた。こいしは風に揺れる柳の枝を掴むようにリボンを受け取り、嬉しそうに笑うと新体操のように振り回した。割物もあるのだから店の中で振り回すのはやめてほしい。だが言ったところで伝わりそうもなかったので霖之助は大人しくリボンを巻き直した。
 少し目を離すとこいしはいなくなっていた。リボン一メートル分の損失だ。まあそのくらいなら可愛いものだ。

 カウンターに戻り本を読んでいると、誰かに袖を引っ張られた。
 目をやるとこいしがにこにことして立っている。自分の首に先程あげた黒いリボンを巻き付けている。
「おそろい!」
 何の事だか解らなかったが、少し考えてチョーカーのことだと気が付いた。
「ああ、そうだね。お揃いだね」
 こいしは満足そうに笑うと、また姿を消した。

 しばらくして文楽人形を担いで持ってきた。がしゃりとカウンターに乗せ、にこにこ笑う。
「よく見つけたね。これは静御前で」
「おそろい!」
 話を切られて何かと思ったが、よく見れば人形の首にもリボンが巻き付けてあった。
「ああ、そうだね。お揃いだ」
 こいしは満足そうに笑い、また姿を消した。

 今度は兎のぬいぐるみを持ってきた。首にはリボンが巻かれている。
「おそろい!」
「そうだね。お揃いだ」
 次はこけしを持ってきた。
「おそろい!」
「うん。まあお揃いだね」
 次は鉢植えを持ってきた。
「おそろい!」
「それはちょっと反応に困る」
「?」
「ああ、うん。お揃いでいいよ」
 こいしは楽しそうに笑った。何が楽しいのかは解らなかったが、とりあえずさせるままにしておいた。カウンターの上はそのうち玩具箱のようになってしまうだろう。

 しかしこいしは次には何も持ってこなかった。その代わり霖之助の袖を引っ張って柱時計を指さした。
 柱時計にはネクタイのようにリボンが巻かれていた。おそらく今日は彼の長い時計人生で唯一フォーマルなお洒落をした日だ。
「おそろい!」
「んー」
 時計と自分は似ているのだろうか? いや考えるだけ無駄だ。

 こいしは霖之助を引っ張ったまま店の外へと飛び出した。早速表に放置されていた冷蔵庫にリボンを巻き付ける。
「おそろい!」
「それ、君ともお揃いってことになるけれどいいのか?」
 こいしは笑った。構わないらしい。試しに心の中で「この冷蔵庫女!」と呼んでみた。自分で想像しておいてあまりにも酷すぎると思った。
「ごめん」
「?」
「ああいや、何でもない」

 こいしは散歩しながら、目につくあらゆるものにリボンを巻き付けていった。花や木の幹、尻尾の切れた蜥蜴までリボンで巻かれた。蜥蜴は巻かれながらきょとんとしていた。襲われるかと思い尻尾まで失って逃げたのに、まさか着飾られるとは夢にも思うまい。人生って解らない。
「折角のリボンなんだから髪でも結んでほしいけれどね」
 霖之助が言った。こいしは一瞬の後、お菓子をねだる子供のような眼で霖之助を見た。
「やってあげるよ。帽子を取って」
 こいしは大人しく帽子を脱いで背を向けた。今日初めて彼女が言うことを聞いてくれた。
 銀灰色の髪が眩しく日の光を反射する。霖之助はまずリボンで適当に花の形を作ってから、こいしの髪を緩やかに結びあげた。柔らかい髪だったのであまりきつく結びたくなかったのだ。
 こいしは自分の頭を気にしてくるくる回った。自らの尾を追いかけ回す犬のようだった。
「湖の方に行ってみようか。水面を鏡代わりにしよう」
 こいしは頷くと、霖之助の袖を下に引っ張って彼を屈ませた。そのまま頭をわしわしと撫でまわされたと思ったら、髪を引っ張られた。
 こいしは手を放して笑った。
「おそろい!」
 どうやら髪を結ばれたらしい。一刻も早く鏡を見たいと霖之助は思った。




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                               終   20120505
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その他 | 【2012-05-06(Sun) 00:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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