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あめふら

Author:あめふら
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吸血鬼と大彗星の魔法使い 第九章
第八章の続きです。未読の方は先に第八章をお読み下さい。



 人里が暗い。
 それは今日の曇天のせいだけではあるまい。ぬぐってもぬぐっても消えてくれない黒ずんだ染みが、人々の心に水の無い雨を降らせている。丁度、今肌に感じる湿り気を帯びた風のようだと魔理沙は思った。ただただ不快感だけを残すような、そんな風だ。
 誰も彼も最悪の展開を心に描いている。しかし、それを口に出して言うことが出来ないでいる。はっきりしたことが解らないのだ。それは希望でもあろう。しかし光が強いほど影も増すように、いつしか力を強めた不安は、空気に溶けて里を覆い尽す程巨大なベールに変わった。

 ふと向こうの辻を見慣れた紅白の衣装が通るのを見て、魔理沙は思わず声をかけた。
「あ! おーい霊夢!」
 振り返った霊夢に、手を振りながら駆け寄る。
「最近神社にいないと思ったら、お前ここんとこずっと里にいるんだって? 引退か?」
「なわけ無いでしょ。これもお役目よ」
 いつもと変わらぬ霊夢の声に、何となく魔理沙は安心して笑う。
「結界は大丈夫なのか?」
「別に放っといてるわけじゃ無いわ。略式だけれど祭壇も持ってきているし、紫も藍もいるからまあ成り立ってる離れ業だけど」
「なるほど、よく解らないけど多分すごいんだな。で、お前どうして里に?」
「歩く抑止力してんのよ。慧音の蒸発と紅魔館に繋がりがあるから、命知らずが自殺しに行かないようにね」
「へえ」
 一拍置いて魔理沙は納得する。成程いくら関係があるとはいえ、里人が迂闊に吸血鬼の居城に飛び込もうものなら惨劇は目に見えている。
「まあ確かに、霊夢が来てから里もちょっとずつ安定してるみたいだな」
 博麗の巫女という圧倒的な存在が身近にあることで、安心感が増したのだろう。少なくとも慧音が消えた直後のような棘々した雰囲気は無くなった。もしも霊夢がいなかったら、と魔理沙は想像してみてすぐに止めた。これ以上深刻になんてなってほしくない。
「……なあ霊夢、慧音が消えたのと同時期に、フランもいなくなってるのは知ってるか?」
「知ってるわ」
 霊夢が事も無げに言う。
「あ、知ってんのか。これってさ、異変かな?」
「さあね。でも、あんまりいい感じはしないわ」
「そうだな……」
 呟いて、遠くの空を見上げる。灰色の雲がその濃さを増していた。
「……一雨来そうだな」
「そうね」
 淡々とした霊夢の言葉がやけに心に響いた。まるで自分の心が伽藍堂であるかのような気がした。
 違う。
 魔理沙はふるふると首を振って、拳をぎっと握りしめると、霊夢に別れを告げて駆けだした。まだ雨は降っていない。

  ◇

 フランドールの名を叫びながら魔法の森を飛び回る。鬱蒼とした深い森が、地表に届く光をより仄暗く彩っている。
 魔理沙は、例えば自分がフランドールだったら、どこへ身を寄せるだろうと考えた。数百年に亘り館から出たことが無い少女だから、あまり極端に離れた場所へは多分行かないのではないだろうか。家出とはいえ、ちょっと移動すれば育った館が見えるくらいの場所でないと、なんだかんだで心細いものだ。丁度、私が家を飛び出して、しかし香霖堂の近くに居を設けたように。それに、いくらフランドールが幼いといえ、自分が日光を受け付けない体だということは当然知っているだろう。ならばこの森は隠れるのにうってつけではないか。枝をいっぱいに広げた木々が鋭い日差しから身を守ってくれるし、紅魔館と付かず離れずの距離にある。うっかり太陽と出会わぬように注意して過ごしていれば、数日数週間くらいは暮らしていけるだろう。
 そう予想して、魔理沙は今日も一人森の中をうろつく。迷子の名前を呼びながら、しかし木陰の向こうから声が返って来たことはまだない。
 フランドールが消えてから既に七日以上経っていた。

 二時間ほど森を探し回った後、喉の渇きを覚えて香霖堂へ向かった。依然、店主は蔵の中だけれど、商品に傷を付けたり壊したりしなければ、自由に出入りしても構わないと言ってくれた。けれど霖之助のいない香霖堂は香霖堂では無い気がする。やっぱり、一刻も早く誤解が解けて、解放されて欲しい。
 やがて香霖堂の屋根が見えた頃、玄関先でガラクタの山に目を奪われている道化と鉢合わせした。
「……あれ? おいマルク、こんなところで何してるんだ?」
「ああ、探しものってとこサ」
 マルクが照れくさそうな笑顔で答えた。
「へえ、奇遇だな。私も探しものの真っ最中だ」
「へー」
 マルクは楽しそうに、薄汚れたキャビネットを開けたり閉めたりしている。魔理沙は彼を横目に玄関前へと座り込んだ。ぼんやりと見上げた庇の向こうの空はどんどん黒さを増していた。
「紅魔館にいなくていいのか?」
 マルクは頷く。
「最近、咲夜さんが視線だけで草木を枯らせそうな顔で見てくるんだよね。だから『バジリスク咲夜』って呼んでみたら本気で殺しに来られてサ」
「そりゃ、お前が悪いよ。ジョークにしてもさ、今の状況考えろよ」
 呆れつつ返すと、マルクがけらけら笑いながら言う。
「解ってないなあ。道化がおどけるのを止めてみろ? 悲愴感倍増だろ? 紅魔館がうっかり蒼く染まるぜ?」
 確かにそうだよな、と魔理沙は思う。紅魔館の面々の暗い表情が目に浮かぶ。彼女たちもきっと、里の人たちと同じように、心の中の不安を消すことも表すことも出来ないで、無表情の仮面に隠して、一見何事も無いように振舞っている。でもそれって普通のことだ。だからみんな無表情だ。無表情って何だろうか? 人から感情を一つ一つ奪っていって、その果てに残るものだろうか。いいや、表現しようのない感情を表現しようともがいた先に出てくる表情の一つではないか。
 不意に自分が今どんな顔をしているのか気になった。ぺたぺた顔を撫でまわしてみる。マルクが不思議そうにそれを見ている。視線に気が付いて手を下ろした。反射的に微笑みかける。マルクもいつも通りに笑う。マルクは笑う。心に不安を抱えたまま、それを笑い飛ばせるというのは、強くなければ出来ないことだ。あるいは才能の一つだろうか。マルクはきっとすごい奴なのだ。

「紅魔館はどんな感じだ?」
 訊くと、マルクは肩を竦めた。
「上から下まで完全に諦めムードサ。やけに静かでねえ、沼の底みたいだ。誰もフランのことに触れようとしないし。正直、ボクらよりもキミの方が熱心にフランを探してるよ」
「そういうお前も、何だかんだでフランを探しに出てきたんだろ? いい奴だな、お前」
 魔理沙が笑みながら言う。マルクもにこにこして、
「いや、探しているのはもう一人の方サ。見つかって無いんだろ? 先生」
「まあそうだけど……」
 と、何かに気付いたように顔を上げた。
「……じゃあ、あれか? お前フランのことはもう諦めてんのか?」
「単純に、フランと先生、どっちが生きてるかって聞かれたら先生だろ?」
 さらりとマルクが言う。
「諦めてんだな?」
「ちょっと違う。執着が無いんだ」
 あっさり言ってのけるマルクに、何だか力が抜けた。
「……なんだよそれ」
 顔を伏せて呟く。マルクはフランドールと一番仲が良かったと聞く。そんな彼が自分のことを諦めていると知ったら、彼女はきっと悲しむと思う。他人事といえば他人事だけれど、魔理沙は、せめてマルクには妥協して欲しくなかった。不満げな視線を彼に向ける。マルクは、心底不思議そうな顔で返した。
「『諦める』っていう物事の終わり方は、この場合妥当だと思うけれど? 何であれ一度終わりにしちゃえば、戻れないから進むしかない。レミィはそういうやり方を選んだんだ。優秀なもんサ。ボクにしてみれば、何でキミがそこまで熱心なのかが解らないね。だってキミ、人間だろ? 喰う喰われるの関係じゃん」
 少し間をおいて、魔理沙が答えた。
「……昔、香霖から聞いたんだけどな、どっかの国の言葉で、魔女を『hexen』って言うんだってさ。『垣根を越える女』って意味だ。聞いたとき、すごくいいなって思ったんだ。つまりそういうことなんだよ。私はさ、霊夢みたいに、何者にも対して徹底的に平等になることは出来ない。でも、そこまでじゃないけど、相手が人間だろうが妖怪だろうが半妖だろうが魔女だろうが吸血鬼だろうが、種族とかどうでもよくて、自分が好きになったものは自信を持って好きなんだ。そういうの、失くしたくないんだ」

 言い終えてマルクを見ると、彼が笑うのを止めていた。
 それは、ほんの一瞬の出来事であったけれど、魔理沙はその表情が不思議と印象に残った。後から考えてみても、あの顔からどんな感情を読み取ればいいのか解らなかった。氷のような憎悪でもないし、逆に深い愛情でもない。目の前の相手にどんな反応をすればいいのか解らない、といった顔でもない。
 ただ、違う生き物を眺めているような顔だった。

「……あー、ボクはキミのこと嫌いかもしれない」
 やがて、マルクが申し訳なさそうに笑いながら言った。これだけ真正面に、清々しく嫌いと言われたのは初めてだった。
「なんで?」
「なんかサ、星っぽい」
 魔理沙は思わず噴き出した。
「わけ解んない奴だな、お前も。……あっ」
 ぽつりと、雨の一滴が屋根を叩いた。
「……降ってきた」

 遠くから雨がやってくる。木々の緑を洗いながら、少しずつ少しずつ雨の香りを届けに来る。断続していた音はやがて連続になり、はっきりとした雨音が鳥の声よりも大きくなり、水玉を化粧して鮮やかに彩られた木葉が雨粒に身を躍らせる。それはまるで、雨の到来を待ち望んで、ようやくの天の返答に喜び舞っているようにも見える。
 魔理沙とマルクは店に入らず、玄関先の庇の下で、ただじっと雨を見ていた。お互いに無言だった。長い間そうしていた。
 雨が泣くように降っている。

  ◇

 吸血鬼の館が、その名に似合わず、まるで喪に服したように重く暗い。
 レミリアが窓辺に腰かけて、雨の一筋一筋が硝子を伝うのを感情の無い目で見ている。
「……降ってきたわね」
 ぽつりと呟く。
「……そうね」
 彼女の後ろから、パチュリーが返す。
 そのまま無言に陥る。
 雨は一つの区切りだった。レミリアもパチュリーも、正直なところフランドールが生存しているとは思っていない。それでも、とりあえず雨が降るまでは捜索を続けようと思っていた。そして雨が降ってしまったら、もう全てを切り上げて次の段階へ進もうと決めていた。
「……」
 レミリアは雨を見たまま動かなかった。あるいは硝子に反射している自分の顔を見ているのかもしれなかった。そんなことをしてどうなるのかは解らない。どうにもならないことを望んでいるのかもしれない。何も考えていないのかもしれない。
 パチュリーは自分に背を向ける友人の小さな背中を、ただただじっと見ていた。適当に力を抜いて、見ようによってはくつろいでいるようにも見えるそれは、とても虚ろな背中だった。
 パチュリーはレミリアに向け、何度か口を開きかけた。そして同じ数だけ口を噤んだ。声を出そうにも、どうしても言葉が出てこなかった。喉を過ぎたところで、今まで音だったものがたちまち空気に変わった。
 そのたびにパチュリーは俯き、しばらくして顔を上げ、また同じことを繰り返した。
 そうやって何もしないまま長い時間が経った。レミリアは微動だにしなかった。呼吸をしているのかどうかも怪しかった。
「……レミィ」
 ほとんど無意識に、パチュリーが声をこぼした。
「ん?」
 彼女の声に反応して、レミリアが柔らかく振りかえる。普段、自分と二人きりの時に見せる、あの優しい表情を浮かべて。
 パチュリーは力なく佇み、まるで自分が透明であるかのような気がした。
「……どうして何も言わないの?」
 また言葉が溢れた。
「マルクが来てから、私は意図的に地下の封印を緩めてた。妹様があまり暴れなくなったから。最後の方なんて本当に、本当に粗末な封印だった。もしも私が、今までと同じ、頑丈で強固で堅牢な封印を続けていれば、きっと、今みたいなことにはなってなかった」
「……」
「私が妹様を逃がしたの」
「……」
「……何か言ってよ……」
 パチュリーは俯く。そのまま黙り込んでレミリアの反応を待った。しかし、レミリアは何も言わなかった。
 再び長い沈黙を挟んで、パチュリーが言う。
「なんで黙ってるの? 私の不手際よ。私は許されないことをしたのよ?……」
 レミリアは何も言わない。
 やがて、堪えかねたようにパチュリーは彼女に掴みかかった。
「……叱ってよ。ねえ叱ってよ! 何で黙ってるの? お前のせいだって怒鳴ってよ! 何で私を責めないのよ! 八つ当たりでも何でもいいから罰してよ! ねえ!! ねえ……お願い……潰されそうなの……おねがい……」
 肩を掴んだ手が、みるみる震えていく。レミリアがパチュリーを抱き寄せた。彼女の頭の上に自分の頬を乗せて、囁くように言う。
「あなたは私から友達まで奪うの?」
 パチュリーの目から滝のように涙が流れ出した。自分より遥かに背の低い少女に抱かれながら、パチュリーは声を上げて、子供のように泣いた。

  ◇

 九夜の月が空に昇る頃、八雲の屋敷で、慧音が紫と藍の二人を正面に坐していた。今しがた全ての話を終えたところだ。慧音は静かに目を伏せている。藍は鋭く真剣な表情を見せている。紫は普段通り悠然としている。
「……さて。彼に教えてあげましょうか。自分の罪の深さをね」
 紫が頬を緩めた。



第十章へ続く
吸血鬼と大彗星の魔法使い | 【2011-07-31(Sun) 00:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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