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あめふら

Author:あめふら
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『OVERCOLL2』 とらのあな
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『レジンフィギュア・物部ハト』 とらのあな

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吸血鬼と大彗星の魔法使い 第七章
第六章の続きです。未読の方は先に第六章をお読み下さい。


 食卓には見事な正餐が並んでいたが、その量と比較して、席についた人数が明らかに不足していた。
 レミリアが一人、彼女の為に特別取り分けられた皿を、ぴかぴかに磨かれた銀のカトラリーでつついていた。まるで生まれた時から指の延長として備えられていたような滑らかな所作で肉を切る。小さな口で啄むように食べる。
 機械的で、始終無言であった。燭台に揺らめく炎が寂しさを余計に演出した。
「……お嬢様、ワインはいかがですか?」
 やがて沈黙に耐えかねたように咲夜が言った。
「いらないわ」
「……そうですか」
 再び沈黙に返った。その沈黙に居心地の悪さを感じながら、咲夜はレミリアの手で閃く銀の軌道を見ていた。紅魔館のカトラリーは全て銀で統一されている。本来あらゆる怪物たちにとって銀は脅威であるのだが、それとはまるで関係無しにレミリアは銀色を好んだ。赤で埋め尽くされたこの屋敷の中で、レミリアが本当に手元に置いておきたい物は大抵銀で出来ていた。逆に左程興味の無い物は金で出来ていることが多かった。私が従者として側におかれているのも、ひょっとしたらこの髪の色のおかげであるかもしれないなと咲夜は思った。

「ごちそうさま」
 咲夜が腕によりをかけて作った料理は、ほとんど手付かずのまま残された。断じて料理が不味いのではない。ここ数日のレミリアはあからさまに食欲が落ちている。
 吸血鬼なのだ。きっとその気になれば一年くらい何も食べずとも生きられるだろうとは予想するのだが、それでも咲夜は胸の痞えを覚えた。
「……お嬢様。もう少し、何かお口になさって下さい。お嬢様の少食は重々承知しておりますが、流石にお体に障ります」
「ねえ咲夜、あなたから見て、私はどう見える?」
 唐突にレミリアから問われた。咲夜は沈黙した。主が一体何を期待してこのような質問をするのか計りかねた。
 回答に迷っていると、レミリアが更に言った。
「正直に」
「……心配です」
 そう返すのが精一杯だった。レミリアは優しく笑いながら、
「そう。家来に心配されるようじゃ私もまだまだね」
 と咲夜を残して独り部屋から出て行った。

「……そういうことでは無いんです」
 無意識に食器を片付けながら咲夜が呟いた。いったい何がそういうことでないのか、自分でも解らなかった。

  ◇

 里に連行された霖之助は蔵の中に押し込められ、そこで退屈と戦っていた。
 暇だ。暇すぎる。
 蔵なのになぜ物が一つも置いていないのか。何か珍しい道具を発掘できるかもしれないと扉の前でときめいた気持ちを返してほしい。暇を潰せるような道具が何も無いと解った空間は、かくも時間に質量を増すのか。
 例えば独房の囚人たちは普段どのようにして時間を潰しているのだろう? 本の一冊でもあれば別だが、そうでなければ哲学でもするのだろうか? ならば監獄もまた一つのアカデミアとなりうる。事実、過去何人もの思想家たちが檻にぶち込まれているだろう。ということは逆に、檻から賢人が放たれることもあるのではないか。
 自分以外に集中する要素の無い環境は、いうなれば修験者の山籠もりと同じだ。狭い世界に身を置いて、広い世界を思索するのにはこの上なく適している。退屈は死に至る病と言うが、考えることを止めなければ人は決して死ぬことは無い。
 丁度いい機会だ。瞑想でもしてみようか。

「……おい……おい、香霖!」
 目を閉じると、誰かが自分を呼ぶ声がする。どうも聞きなれた声だ。
 現実らしいので振り向くと、蔵と外との唯一の接点である覗窓から、魔理沙が必死になって彼に呼びかけていた。
「ああ、魔理沙か。どうしたんだい?」
 平然とした様子に安心したのか、魔理沙は一瞬泣きそうに崩れたが、すぐに元の勢いを取り戻した。
「こっちの台詞だよ! お前、一体何したんだよ! あっちこっちで香霖が慧音を隠したって噂になってるぞ! 何でこんなことになってるんだよ!」
「悪事千里を走るというからな」
「茶化してる場合かよ! まさか、お前本当にそんなことやったんじゃ無いんだろう?」
「ああ。僕は全くの無実だ」
「じゃあ、じゃあ何でおとなしく捕まってんだよ! 弁明しろよ!」
「ま、ちょっとした事情があってさ」
 自分の境遇を笑うように、やれやれと両手を広げてみせる。魔理沙はぐっと俯いて、手が真白になるくらい格子を握りしめながら、顔を上げたと同時に叫んだ。
「事情って何だよ! 香霖が捕まっていい事情かよ! 悪いことして無いのに、そんなのおかしいだろ! ひょっとして、みんな聞く耳持ってくれないのか? だったら、親父通じてそういう場を作ってもらうからさ!」
「それは駄目だ」
 真面目な顔で切り捨てると、魔理沙の目にみるみる涙が溜まっていった。
「何でだよ! 何が駄目なんだよ! 意味解んないよ! この場で説明しろよ!」
「いや、それが本当に駄目なんだよ。色々あってさ」
「……私にも言えないのか?」
「ああ、言えない。でも僕は大丈夫だからさ、そんな顔しないでくれよ」
 霖之助は優しく諭すように言ったが、かえって魔理沙に無力感を植え付ける結果となった。

 この二人はほとんど兄妹と言ってもいいような関係である。物心ついた時から魔理沙は霖之助を実の兄のように慕っている。実家を飛び出して一人暮らしをするようになってからは特に、底無しに甘えられる唯一の存在となっている。
 ここだけの話、魔理沙は郷内で絶大なる人気を誇る。本人に自覚は無いが、彼女の力になりたいと願う者は果てしなく多い。ほとんどの人間は彼女と一日過ごすだけで間違いなく彼女を好きになるし、人里には隠れファンクラブがあるくらいだ。
 魔理沙は自分の為に全力を尽くし、同時に他人の為にも全力を尽くせる奇跡のような人である。
 もっとも彼女自身はあまり強い人間ではない。だからこそ、不器用で無様で泥まみれに泣きながら、それでも前に進もうとする彼女の姿勢は、遠く眩しく光る星のように人々に希望を与える。
 そんな魔理沙が唯一心の底から頼りに出来るのが霖之助なのだ。
 そのため彼女は香霖堂に現れるたびに、他人が見たら精神年齢を疑われるくらいにべたべたと彼に甘える。指先でも服の端でも、とにかく彼に触れたがる。霖之助も魔理沙を妹のように思っているから、一見して二人の間に垣根らしいものは無い。
 しかし魔理沙は時折、霖之助と自分の間にはどうしようもない壁があるのを感じる。
 ちょうど今、目の前で二人を分かつ格子のように。相手の存在をすぐ近くに感じながら、絶対に埋めることの出来ない残酷な溝がそこにある。
 それはきっと、霖之助にとっての「唯一心の底から頼れる存在」が自分ではないからなのだと思う。
 そういうとき、魔理沙はたまらなく一人ぼっちになった。

 両目からぼろぼろと涙が落ちた。止めようと思っても止まらなかった。
「大丈夫じゃないだろ。だって……」
 大切な人が明らかに濡れ衣を着せられて、不当な扱いを受けているのが悔しかった。具体的な力になれないのが悲しかった。
 震える声を絞り出して、再び声を詰まらせて魔理沙は静かに泣いた。
「魔理沙、どうして僕が『軟禁』で済んでいると思う?」
 魔理沙は解らないと首を振って答えた。霖之助は続ける。
「僕が本当に慧音を殺した犯人なら、こんな良心的な処置で済むはず無いだろう? 縛り上げて吊るし上げて蹴って殴って礫を浴びせて、最終的に手足を折って川に沈めるくらいはしてもいいのに、ご覧の通り僕は傷一つ無い。何故かというと、里のみんなは迷っているんだ。突然慧音がいなくなって、みんな不安で頭に血が上ってしまって、何をしていいのか解らなくて、でも何かしないではいられなかった。だから、とりあえず一番怪しい奴を捕まえてみた、ってだけさ。そうせずにはいられなかったんだ。捕まえた後どうするかまで考えて無かったのさ。そのくらい、今の人里は不安定なんだ。ここで僕が『濡れ衣だ!』と声を大にして主張したら、事実がひっくり返ってひっくり返って、もっと面倒なことになるかもしれない。最悪、僕の処遇を巡って里が真っ二つに分かれてしまうかもしれない。だから僕は沈黙する。少なくとも今はね。それまではこうして捕まっていることが、回り回って里の為になるんだ。里人の頭が冷えるまでもう少し時間がかかる。反論するならそこさ。いや、する必要すら無い。だって僕は潔白だからね。何も言わずに皆を許してやろう。香霖堂の店主がどれだけ器の大きい人物か見せ付けてやるさ。
 ほら。僕は大丈夫なんだ。だからべそをかくのをやめてくれ。僕は無罪だけれど、魔理沙が泣いていると非常に悪いことをしたような気持ちになるんだ」
「……うん」
 魔理沙は袖口でぐしぐしと涙をぬぐって、精一杯の笑顔を作って見せた。霖之助も嬉しそうに頷いた。
「私に出来ることがあったら、何でも言ってくれよ?」
「ああ。それじゃあ早速だけれど頼まれてくれるかな?」
「よし、なんでも来い!」
 魔理沙は胸を張った。霖之助はちょっと照れくさそうに、
「些細なことなんだけれどさ。実は紅魔館から借りている本があって、今日返す予定だったんだけれど、突然こんなことになっちゃったから、まだ返せていないんだよ。店のカウンターに平積みにされてるから、代わりに返してきてくれないか?」
「なんだそんなことか。オーケイ。即行で返してきてやるぜ!」
「ああ頼むよ。ついでに向こうの人達に宜しく言っておいてくれ」
 足取りも軽やかに、魔理沙は香霖堂へ針路を取った。どんな些細なことであれ、彼の力になれることは嬉しいのだ。

  ◇

 紅魔の図書館でパチュリーが独り本を捲っている。ただ捲っているだけである。ぼうっとして、目を開けているのに何も見ていない。紙面に集中しようと試みても、文字が情報として入ってこない。まるで深い海の底を一人で漂っているみたいだ。水圧で心臓が締め付けられるように痛い。それを誤魔化すために、彼女は本を読むふりを続ける。虚ろな目をして、何時間も同じ姿勢のまま動かない。動かすことを忘れてしまっている。図書館特有の静寂が、ひどい粘性をもって絡み付くのだ。

 両手いっぱいに本を抱えて図書館に飛び込んだ魔理沙は、館内に流れる静寂の違和感を鋭敏に察知した。
 そのため普段以上に明るく振舞いながら、図書館の主であるパチュリーの前に躍り出る。
「よう、パチュリー」
 反応が無かったので無視されたのかと思った。何となく気まずい思いで固まる。パチュリーはたっぷり時間をかけて顔を持ち上げ、最初、一体何が起こったのか解らないといった風に魔理沙を見た。
「……ん? ああ、魔理沙ね。何の用?」
「どうした? いつにも増して反応鈍いな? ま、大した用事じゃないぜ。借りてた本を返しに来ただけだ!」
「ああ、そう。そこの机の上にでも置いといて」

 唖然とした。
「……いや、今のは驚くところだろ? 『魔理沙が本を返しに来るなんて世界の破滅よ!』とか何とか言って」
「……ああ、うん、そうね。一体どういう風の吹き回し?」
 魔理沙は努めて明るい声で、
「実は、私が借りてた本じゃないんだぜ! 残念でしたー! 香霖からのお使いだ!」
「香霖堂の? ……ああ、そういえば貸してたわね」
「しっかし、香霖も変な本読んでるよなー。『危険生物取り扱いマニュアル』とか、ほら、これなんか見てみろ。『進化する万願寺唐辛子』って一体どんな内容だよ! あははは」
「そうね」
 乾いた笑いが徐々に小さく消えて行った。明るさが空回りしている。まるで表情を変えないパチュリーを見て、魔理沙は真剣に訊ねた。
「……なあ、何かあったのか? 本当にいつもと違うぞ? なんていうか、暗い」
 沈黙を挟んでパチュリーが言った。
「……魔理沙、まさかとは思うけれど、あなたの家に妹様行ってない?」
「フランが家に? 来るわけ無いだろ。ていうかあいつ、こっから出られないじゃないか」
「……そうよね」
 少しだけ残念そうに呟いて、パチュリーは魔理沙から視線を外した。
 どういうことだろう? 質問の意味を考えていた魔理沙は、突然顔色を変えてパチュリーに詰め寄った。
「……おい。まさかフランの奴、家出したのか!? そうだろ? そうなんだろ!」
 と肩を掴んで大きく揺する。苦しそうに小さく顔を歪めたパチュリーに気付き慌てて手を放すと、パチュリーはふらふらと椅子にもたれかかり、服の乱れを直しもしないまま、ぼんやりとした声で告げた。
「……家出かどうかは解らないけれどね。屋敷のどこにもいないのよ」
「……いつから?」
「一昨日」
「お、おい! それってやばいだろ! あいつレミリアより日光に弱いんだろ?」
「暗室育ちだからね……水たまりに反射した日光に当たっても、きっと灰になるでしょうね」
「まじかよ……」
 魔理沙は頭を抱えて立ちすくんだ。なるほど空気が重い訳だ。
「不思議ね。存在が確かなものであればあるほど、消える時は本当にあっけなく消えてしまう。淋しいわ」
 パチュリーは中空を見つめながら、力なく、独白のように言う。
「次に雨が降ったら諦める」

 一般に吸血鬼は流れる水を渡れないとされる。
 水は邪悪なるものを洗い流すという信仰が先にあったのか、吸血鬼の生態が先にあったのかは知れないが、事実効果はある。以前パチュリーはフランドールの外出を防ぐために、局地的に館の周りだけ雨を降らせたことがある。土砂降りとは言えない雨だったが、それだけで彼女は身動きが取れなくなった。
 吸血鬼は雨を嫌うのだ。ひょっとすると、レミリアならば雨程度は問題にしないのかもしれない。
 しかし、フランドールならば?

「おい待てよ、なに弱気になってんだよ! 死んだと決まったわけじゃないだろ!」
 魔理沙が叫んだ。パチュリーはただ淡々と、
「誰も死体なんて確認出来ないわ。灰になって消えるんだから」
「そういうことを言ってるんじゃねえよ! いいか、香霖なんかな、今無実の罪で捕まってんのに、それでいつ罰されてもおかしくないのに余裕ぶって笑ってんだぞ! どう考えても理不尽な状況で、機が熟するのをひたすら待ってんだぞ! お前もそのくらいのしぶとさ持てよ!」
 パチュリーが今日初めて魔理沙の顔をまっすぐに見た。
「だから何よ? しぶとさで状況が変わるの? それはある程度事態が長期化を許す場合だけよ。一日たった時点でもうほとんど終わりなのよ。太陽の無い世界がこの世のどこにあるっていうの? 吸血鬼がなんで館を構えるか解ってるの? それともあなたが何かしてくれるっていうの?」
「探すよ! 私もフランを探す!!」

 突然、パチュリーが泣きそうな顔になって机に突っ伏した。
 咄嗟の出来事にかける言葉も見つからず、魔理沙はしばらく、無言で彼女の背をじっと見ていた。
「……ごめんなさい」
 伏せたままのパチュリーから、消えそうな声が聞こえた。
 魔理沙は隣に腰を下ろして、今日はとにかく彼女に付き合おうと心に決めた。



第八章へ続く
吸血鬼と大彗星の魔法使い | 【2011-07-15(Fri) 00:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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