管理人

あめふら

Author:あめふら
二次創作のお話を書いたり、書かなかったり。
リンクはご自由にどうぞ。していただけるのなら喜んで。

何かありましたらこちらまでお寄せ下さい。
amefurashi00◇gmail.com
(◇→@)


目次
最新コメント
刊行
pixivで描いた漫画をまとめました。


『OVERCOLL2』 とらのあな
booth
制作
作ったものを売っています。


『レジンフィギュア・物部ハト』

リンク
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | 【--------(--) --:--:--】 | Trackback(-) | Comments(-)
吸血鬼と大彗星の魔法使い 第一章



 フランドールが日記を書こうと思い立ったのは、全くの気まぐれであった。
 ひっくり返したおもちゃ箱のような部屋の中から、長い時間をかけて鉛筆と、余白の多い本を探し出すと、さっそくページを一枚破ってペンを走らせる。

  ○月×日

 一行目にそれだけ書いて、フランドールは今日がいったい何月の何日なのか忘れてしまっていることに気が付いた。途端に情熱は冷めて、八つ当たりに鉛筆を投げた。鉛筆はほぼ直線的に壁に向かって飛び、ぶつかると同時に爆発して消えた。
 残骸がぱらぱらと霰のように床に落ちる。その様子をぼんやりと眺めて、溜息をつくと床に大の字に寝ころんだ。

 そもそも、書き記しておくような出来事も無いのだ。退屈の二文字だけを覚えていれば、それで人生の半分が事足りるほど彼女は無変化の中に生きてきたし、故にいつも刺激に飢えていて、口に出して言いはしないものの燻っていたのは確かだ。
 床から見上げた天井には豪奢なシャンデリアがついている。大昔に姉が取り付けてくれたものだ。しかし、このシャンデリアに灯りが点いた記憶は無い。視線を横に転がすと、これまた見事な天蓋の付いたベッドが部屋の主のようにどっしりと腰を据えている。これも姉に頂いたものだ。箪笥も机も、その他この部屋のありとあらゆる調度品は、何から何まで姉に与えられたもので、考えてみればフランドールが自ら選んで設置したものは一つも無かった。
 もちろん、一つ一つは非常に高価で質も良く、どこに出しても恥ずかしくない、値段も付けられないような代物であるのだが、まるで地下牢のようなこの部屋の中で、ただ調度品だけが何よりも豪華というのは、はっきりいって趣味が悪いし、フランドールにしてみれば卑屈な笑いを誘った。

 太陽と月が大喧嘩でもすればいいのにな、とフランドールは思った。昼も夜も滅茶苦茶になってしまえば、世界はどれほど賑やかになるのだろう。
 でもそうなってしまったら、私は何時に眼を覚ましたらいいんだろう?
 考えるふりだけしながら、さっき鉛筆を投げた壁を見ると壁紙には傷痕一つ付いていない。何でもこの部屋には特殊な魔法のコーティングがしてあって、破壊や騒音に滅法強いのだそうだ。溜息も出なかった。

 まあどうでもいいや。どうでもいい。昼でも夜でもいい。好きな時に起きればいい。どうせここは光の届かない、暗い地下室なんだもの。昼も夜も無いんだし、太陽なんて見たことないし、見ちゃったらちょっとまずいし。
 寝返りを打って、今日は不貞寝を決め込んだ。世の中には楽しいことが沢山あるらしい。けれど、全ては遥か遠くのどこかで起こっていることなのだ。ここじゃない。
 ああ、退屈。誰も遊びに来ない。誰も近寄って来ない。紅魔館には元々来客が少ないのだけれど、たまに時間を見失う。私は昔、どうやって一人で時間を潰していただろう? 時間って潰せるのかな? 今度咲夜に訊いてみよう。
 退屈。暇。つまんない。誰か遊びに来ないかなあ。
「……来ないかなあ」
 呟いて目を閉じると、しじまから声が返ってきた。
「やあ」
「え?」

 勢いよく体を起こすと、部屋の隅に、二又に分かれた帽子を被った少年がにこにことして立っていた。
 誰? と尋ねるよりも先に、
「ワン、ツー、スリー!」
 ぽんっ、と軽い音を立てて、彼の手の中から花が一輪飛び出した。
「じゃーん」
「わあっ! すごいすごーい!!」
 フランドールはくりくりとした目を存分に輝かせた。彼が得意げな顔をして指を鳴らすと、更に十数本の花が宙に舞った。
「じゃーん!」
「すごいすごいすごーい!! ねえ、どうやったの!」
「種も仕掛けもありませーん」
「本当! やっぱりすごい! 魔法使いなの?」
「んー、どっちかっていうと道化サ」
「道化!」
 フランドールはすっかり感激して、彼のもとへにじり寄った。見知らぬ相手への用心など既に消え失せていた。
「私、道化って初めて見るの! あれでしょう、玉乗りしたり、お皿回したり、子供にトラウマ作ったりするんでしょう!」
 彼はにこにこしながら、
「よく知ってるね。ボクも色々出来るよ。中でも玉乗りは一番得意サ」
「え! 見せて見せて!」
「よしきた! それっ」
 と、どこから取り出したのか紅白縞の大きな玉の上で、見事なアクロバットを始めた。
 フランドールの顔はますます輝いた。
「わ! わあっ! すごい! きゃー落ちる! あ! おお! おおお!! すごいすごいすごい! あはははは!!」
 彼が玉から飛び降りて、演技がかったお辞儀をすると、フランドールは拍手喝采でそれを迎え、興奮冷めやらぬ調子で今更の質問をした。
「ねえ、あなただあれ? どこから来たの?」
「ボクはマルク。キミに呼ばれてお空の上からやってきたのサ」
「『キミに呼ばれて』ですって! きゃー!」
 黄色い声を上げ、続けて首を傾げる。
「でもお空の上って?」
「本当だよ。鳥よりも雲よりも高い、星とおんなじところから、羽を失くして落っこちちゃったのサ」
「まあ、大変だったのね」
 フランドールは心から同情した。
「そうでもないサ。ところで今度はこっちから聞いてもいいかい? キミのお名前は?」
「フランよ。フランドール・スカーレット」
「キミはここに一人で住んでいるのかい?」
「ん? 違うよ。ここは紅魔館の地下室。上にはレミリアお姉様とかパチェとか咲夜とか美鈴とか、あとはなんか悪魔とか妖精とかいるよ。ホールから降りてきたんなら、一人くらい見たでしょう?」
「いや確認サ。次。キミはどうしてここにいるの?」
「それは、お姉様がここにいろって言ったから。私吸血鬼だし、お姉様ほど日光に強くないから、たぶん勝手にお外に出ないようにって、そういうことなんだと思う。おかげでここ四百九十五年間一回もお外に出ていないの」
 フランドールは憂鬱そうに目を伏せた。
「まー、大変だったんだね」
「うん。ずっと一人で暇だった」
「その気持ちはけっこう解るよ。ボクも一人で暇だったし」
「そうなの?」
「そー」
 フランドールはぱっと嬉しそうに顔を上げた。
「それじゃあ私たち似た者同士なんだね!」
 マルクもにこにこしながら、
「そうだね! ボクの羽もキミのとそっくりだったし」
「本当に! まるで運命みたい!」
「運命っていうか引力サ。キミは引力を信じるかい? 出会いは引力なんだぜ? それにしても、いいなあ、その羽」
「ふふっ。ありがとう。羽を褒められたのは初めてよ!」
 羽といっても彼女のそれは鳥や蝙蝠の羽とは一線を画す、黒い蔦にプリズムが鈴生りになったような、まるで羽とは思えない装飾的な形をしている。
 フランドールが大切そうに羽を撫でると、羽はしゃらんと鈴蘭のように鳴いた。
「ねえ、他にも何か芸を見せて!」
「いいよー」

 そこでノックの音が二人を遮った。振り向くと重たい扉を音もなく開けて一人のメイドが入ってきた。メイドは恭しくお辞儀しながら、
「妹様、お食事をお持ちしまし……」
 と言いかけて、フランドールの横に立つマルクの姿を見た瞬間、
「誰だお前は!」
 狩人のような顔になって、幾度となく繰り返されたであろう恐ろしく滑らかな動作でナイフを投げた。
 鍔の無い投擲用のナイフが回転しながら迷うことなくマルクに襲いかかり、
「ほいっ、ほいっ、ほいっ!」
「な!?」
 なんと空中で全て受け止められた。マルクは掴んだナイフをそのまま使って器用にジャグリングを始めた。

「あ! おおっ、すごい! えっと、なんだっけ? ジャングルジム!」
「ジャグリングです、妹様。……それで、彼は一体どなたなのですか?」
 自分のナイフを避けるならまだしも空中で止められたのは初めてである。少なからずショックを受けながら、しかし完璧なメイドである彼女はそのことをおくびにも出さず、傍らで無邪気に笑う主君の妹に尋ねた。
 フランドールは彼女を見上げると、くりくりとした目で問い返した。
「え? お姉様が呼んだんじゃないの?」
「え?」
「え?」
 二人は顔を見合わせると、ほぼ同時にマルクの方を向いた。

  ◇

 紅魔館というのがこの建物の名称だ。幻想郷には珍しい純然たる西洋建築であるが、なんといってもその特徴は、名にも記されている通りの紅さにある。外壁は元より、内装も壁紙からカーテン、絨毯に至るまで徹底して紅い。統一感があるといえばあるが、ここまでされると却って不気味である。それにはっきり言うと趣味が悪い。室内装飾は必要以上に豪華で、まるで自分の財力を見せびらかしたくてたまらないといった風だ。
 さて、そんな館の一室に四人の人物が集まっていた。一人はフランドール、もう一人はマルク。二人に対面する形で先程のメイドがいる。
 そしてその隣で、高級感漂う背の高い椅子に深々と腰を下ろした色素の薄い少女が、この紅魔館の主であり、幻想郷にその名を轟かす吸血鬼レミリア・スカーレットである。

「道化ねえ」
 レミリアは頬杖を突きながらいかにも怠惰そうに言った。あどけない少女の見た目からは考えられぬほど深い声だ。
「マルクと言います」
 マルクはにこにこしている。
「何処から来た」
「空の上から」
「なるほど。それで空の上から来たお前が、如何なる理由をもって我が紅魔館へ立ち入った?」
 レミリアが血のような色の目を光らせる。並みの人間ならばそれだけで震え上がりそうな目だったが、マルクは平気なようだ。
「引力を感じて」
「ふざけているの?」
「おさめなさい咲夜。道化はふざけるのが仕事よ」
 レミリアに諭され、メイドの十六夜咲夜はホルスターに伸ばした手を大人しく引いた。マルクは気にせず話を続ける。
「ま、お察しの通りボクは漂泊の芸人で、ここらへんには来たばっかりなのサ。それで雇われ先を探している最中、なんかそれっぽい建物が見えたから入ったってわけサ」
「里で大道芸でもしていれば?」
 咲夜が不快感を隠しもせずに言うと、
「へー。近くに里があるのか」
 と意外そうに返した。この土地勘の無さは、誤魔化しているわけではなくて、本当に幻想郷へ来たばかりなのかな、と咲夜は思った。しかし初めての土地でいきなり吸血鬼の牙城を訪れるのは、命知らずというか図太い神経である。

 隅の方で居心地の悪そうにしていたフランドールがおずおずと口を開いた。
「……あの、お姉様」
「いいわ。うちに置いてあげる」
 遮るようにレミリアが言った。
「え?」
 フランドールは出鼻を挫かれてぽかんとしたが、徐々に姉の発言の意味が解ると、喜びを噛み殺せずにたちまち笑顔になった。
「いいんですか、こんな出自も解らない輩を雇用して」
 咲夜が目を丸くすると、レミリアは静かに、
「芸人に過去を求めるのは無粋よ。懐かしいわね。昔はどこの王侯貴族も道化を飼っていたっけ。それに、フランが気に入ったようだしね」
「お姉様……」
 思いがけずフランドールの心に姉への尊敬の念が湧いた。
「まあ、お嬢様がそう仰るのでしたら」
 咲夜はしぶしぶ言うと、口を真一文字に結んだ。
 レミリアは咲夜に微笑み、マルクに向き直ると例の悪魔的な目で彼を射抜いた。
「まさかとは思うけれど、フランを交渉のダシに使った、なんてことは無いわよね」
「まさかー。そんなことはしないサ」
「そう」
 マルクとレミリアは互いに微笑みあった。部屋の空気が冷たくなった気がした。
「咲夜、彼に館の勝手を教えてあげて。その辺の妖精メイドよりもずっと頭が回るみたいだから、ついでに雑務も覚えせていいわ」
「かしこまりました」
「さて、フラン」
 レミリアが向き直ると、フランドールは一瞬体を硬直させた。
「はい」
「このマルクを紅魔館付きの道化としてあなたに与える。退屈な時は遊び相手になってもらいなさい。くれぐれも飼い馴らすようにね」
 一気に言ってしまうとレミリアは興味を無くしたように深く椅子にもたれ目を閉じた。
「はい! ありがとうございます、お姉様!」
 フランドールは普段よりも大きな声で姉に礼を述べ、一目散に部屋を飛び出した。

  ◇

 地下の私室に辿り着くと、ようやく緊張が解けたのか手足の怠さを感じた。猫のように体を伸ばす。どうも姉の正面は居心地が悪い。一通り体を解すと、さっそく姉公認となった遊び相手を振り返った。
「よかった! これで毎日遊べるね! ところで飼い馴らすって何だろう?」
「仲良くしなさいってことなんじゃないかな」
「なんだ、なら大丈夫よ。私たち似た者同士だもんね!」
 フランドールは確信的に言うと、期待に満ちた目でマルクを見た。マルクはにこにこしながら、
「そうだね! 改めてよろしく、フラン。いやあ、それにしても本当にいい羽だね」
「ありがとう! でも、女の子に同じ文句は二度通用しないわよ?」
 くすくす笑いながら言うと、マルクは大袈裟に手を広げながら、手厳しいなあ、と笑った。



第二章へ続く
吸血鬼と大彗星の魔法使い | 【2011-06-02(Thu) 00:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。