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あめふら

Author:あめふら
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『OVERCOLL2』 とらのあな
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傲慢な銃 第八章(完)
第七章の続きです。未読の方は先に第七章をお読み下さい。


 頭の中で様々な情報が回っている。けれど混乱はしていない。ようやく霧が晴れた気分だ。
 隣を見ると椛が震えていたので、とりあえず抱きしめた。
 店主さんがここまで熱心だった理由は、予想していたことと大して変わらなかったけれど、しかし改めて聞かされると、よくその程度で動いたなと思う。友達が殺された。殺した奴をぶっ飛ばした。単純化すればこれだけ。子供の喧嘩みたいな理由だ。利害も何も無い。復讐ですらない。ただ、気が晴れるだけ。
 まったく、仕方の無い人なんだから。

「身勝手な男だ」
 気持ちを代弁するように、大天狗様が呟いた。
「組織に属したことの無い者の台詞だ」
「たまには山を飛び出してみるのもいいですよ。射命丸みたいに」
 体がびくっと動いた。そこで名前を出さないでくれ。びっくりするじゃないか。
「その銃はお前に取らそう。我らが持っていたところでどうしようもない。好きにするがいい」
「ありがとうございます」
「お前達、聞いたとおりだ。構わんな」
 異論の声は上がらなかった。
「『天狗隠し』が消滅したことは既に確認がとれている。結果だけをみればお前の行動は、我々天狗が三十年間怖れてきた脅威を取り去ったことになる。ならばお前は我らの客人である」
 大天狗様が読み上げるように言う。店主さんは黙ってそれを聞いている。
「しかし、罪は罪であり、罰は罰だ。天狗の領域に明確な意思を持って侵入した罪は消えぬ。よって罰を与える」
 椛がはっとなって顔を上げたが、口を開く前に胸の中に押し戻した。胸の中で暴れる椛に言い聞かせる。
「いいの。あの人はこうなるって解っててやったんだから」
「でも……」
「最初に言ってたでしょ? 判定は覆らないって。罪には罰なの。そういう社会なんだから当然よ」
「でも」
「大丈夫」
 そう言って微笑んだ。
 実はさっきから、罰の内容がちらちらと見えているのだ。

「貴様は罪人であり客人である。よって罰もそれに倣う」
 大天狗様の台詞に合わせて、樽がごろごろと転がってきた。
「刑罰のような歓待を。……さしあたりアルコールの地獄に落ちてもらおう」
 樽から注がれた液体が巨大な杯に満たされて、店主さんの前に置かれる。杯に手をかけると、高く掲げた。
「飲め。飲まねば帰さぬ」
 大天狗様もなかなか粋なことするじゃないか!

  ◇

 辺りはもうすっかり夜だ。昼から続いた酒盛りは、酒の香りに誘われた天狗たちを巻き込んで、最早大宴会に発展している。天狗の鼻には特別アルコールを嗅ぎつけるような機能も無いはずなのに、どうしてこう人数が増えていくのだろう? 不思議だ。多分出席者の大多数は、これが何を発端とした宴かなんて知らないし、興味も無いのだろう。

 私は宴の中心を離れて、縁側で一人座っている。
 何となく、一人になりたかった。
 宴の喧騒もここには届かない。風の音の方がずっと大きい。お酒で体が温まっているためだろうけれど、肌にあたる風は、とても心地がいい。
「夕涼み?」
 いつの間にか隣に文さんが座っていた。彼女はいつだって突然現れる。
「そんなとこです」
「私も混ぜてくれる? 飲みすぎちゃって」
 そうは言うが、文さんの顔はいたって涼しげだ。
「今日は、この間みたいにはならないんですね」
「何のことを言っているのかな? お姉さんに言ってごらん?」
「いえ。なんでもないです」
 文さんが頬をつねってくる。ああ、やっぱり酔っているのかも。
 風が、ごう、と通り過ぎた。

「父のことを考えていました」
 呟くように言った。
「一人でいる時にはよく、もし、あの時父が死ななかったらな、って考えて時間を潰していたんです」
「へえ」
「もしも『天狗隠し』がもっと前から知られていたら、とか。もしも、父があの銃を見つけなかったらな、とか。もしも、見つけても、そのまま放っておいたらな、とか。そうしたら、父はまだ生きていて、今の私と話をしているのかなって」
「うーん。私は、椛には悪いけれど、やっぱりお父さんは亡くなってたと思う」
「まあ、そうですけれどね。哨戒天狗ですから。確認を怠りはしませんよ」
「うん。危険を見つけて、確認しないなんてありえないもん。まして『天狗隠し』でしょ?」
「でしょ、って?」
「ほら、あそこ遠いから、普通にしてたら、何か異変があっても千里眼でしか気がつかないと思うの。そんな場所の危険を放置したら、いつか代わりに貴女がそれを見つけちゃうかもしれないじゃない?」
 文さんは当たり前みたいに言ったけれど、そうか、そんなこと、考えてもみなかった。

 と、突然森近さんが倒れてきた。
「うわ!」
 思わず飛び退く。森近さんはどさりとうつ伏せに倒れたまま動かない。顔を見合わせた後、文さんが彼の顔を覗き込んだ。
「……何しに来たんですか?」
「……避難。……無理だ。あいつら人間じゃない……魔界のアルコール分解酵素をお持ちのようだ……」
「そりゃあ天狗ですから」
「……酒に自信はあったんだけれど……無理だ……もう二度と天狗と飲み比べなんてするか……」
「駄目ですよ。今夜のヒーローがそれじゃ。とっとと戻りなさい」
 文さんが森近さんの背中をバシバシと叩いた。
「……なんだよヒーローって……」
「え? いやあ、天狗の脅威を取り去った英雄として、人里に触れ回ってやろうかと思って。具体的には稗田家とか」
「え? やめて。地味にきつい」
「いいじゃないですか! 英雄森近霖之助! ざまあみろ!」
「頼むからそれはやめてくれ……ひょっとして怒ってる?」
「私を仲間外れにしたことに対する罰です」
 文さんはぷいっとそっぽを向いた。
 後から知ったことなのだが、今回の事件は全て森近さんの独断で行なわれ、文さんと私はあくまで巻き込まれた立場である、という形で話がまとまっていたらしいのだ。そこに文さんが上申したものだから、森近さんはかなり顔色を悪くしたという。
「……あれなあ。君が割り込んでこなかったら、もう少し丸く治められたんだが」
「黙りなさい」
 文さんがぴしゃりと言った。
「……椛ちゃん、助けてくれ」
「えーっと、無理です。たぶん森近さんが悪いです……」
 そう聞くと、森近さんはがっくりと頭を落とした。

「一つだけ解らないことがあるんです」
 文さんが、多少復活した森近さんに問いかけた。
「なんだい?」
「店主さんはどうやって『天狗隠し』の包囲網を掻い潜ったんですか?」
「ああ、混乱に乗じて入った」
「はい?」
 文さんがぽかんとしている。
「いや、近くまでは行ったんだけれどさ。流石の僕でもあの警備を突破するのは無理だ。そしたら都合よく表で君が暴れてくれたから、そっちに気を取られて手薄になった隙に入った。いやあ、運が良かった」
「おい」
 文さんが笑っている。笑っているけど何か怖い!
「計算してたろお前?」
「……いや?」
「あんたという男はあっ!!」
 ばこっ! と鈍い音を立てて森近さんの頭が叩かれた。
「痛っ!」
「私が! どんな! 思いで! あの場に! いたと! 思ってるんだ!」
「ちょっ!? 射命丸!? 痛い! 本当に痛い!!」
 文さんが森近さんをリズミカルに叩いている。
 ……うん。仕方が無い。これも森近さんが悪い。
「ごめん! 謝るって! 君の新聞も読むし!……定期購読する! どうだ!」
「どうだ、じゃなーいっ! 私の新聞を読むなんて当然だ! 国民の義務だっ! お前はそんなことも知らないのか!!」
「知らない! 知りたくない!」
「貴様っ!!」
 ばきっ!!
 あ、今、凄く痛そうなのが入った。止めた方がいいのだろうか?
 でも、なんとなくこれが二人の自然な姿なのかなと思ったら、急に可笑しくなって、声を上げて笑った。
 気が付いたら、文さんと森近さんが、ぴたりと動きを止めて、眼を丸くしながらこちらを見ていた。
「え? あの……どうかしました?」
「……いや、ねぇ」
「……ああ」
 二人はにやにやしながら顔を見合わせている。
「あの、何なんですか?」
「椛、笑ったね」
「え?」
「初めて見たな」
「え?……や、やめて下さいっ! なんか恥ずかしいです! やめて! やーめーてー!」
 二人が子犬を見るみたいな眼で見てくる。なんだよっ! 二人とも息ぴったりじゃないか!

「椛ちゃん、刀は持ってる?」
 落ち着いてから森近さんが訊いてきた。
「今ですか?」
「うん。今」
「一応事務所の中にありますけれど……」
「ああ、よかった。じゃあちょっと持ってきてくれるかい?」
「あ、はい」
 そう言って席を立ち、刀を担いで戻ってくると、森近さんは姿を消していた。
「森近さんは?」
「何か取ってくるって言ってたけど?」
 少しして、森近さんはあの猟銃を持ってやってきた。眼が釘付けになった。思わず森近さんから距離をとった。
「まだ死んでないんだ。こいつ」
「え?」
「触ってみれば解るけれど、微妙に動くんだよ。多分、僕が半人半妖だったから、半死半生で止まったんだろう」
 と、銃を手渡された。恐る恐る受け取る。
「……触っても大丈夫なんですか? ……うわっ!」
 腕の中で銃がぴくりと跳ねた。その様子を楽しそうに見ていた森近さんは、ふと真剣な顔になって、
「終わらせてやってくれ」
 と言った。
「三十年間働き詰めだったのは天狗だけじゃないのさ。もう休んでもいい頃だ。たのむ」

 すっと、心が凪いだ。
 遠かった喧騒が、いよいよ聞こえなくなった。
 手の中の猟銃を見つめた。急に涙が出そうになって、慌てて唾を飲み込んだ。
 思えばそれは、叫びだったのかもしれない。
 全ては三十年前、この銃が誰からも忘れられたことから始まった。
 流されてきたこの土地で暴走を始めたちっぽけな銃。『天狗隠し』の正体。沢山の命を奪った元凶。誇り高きを証明するために、飛んでくる命を残さず撃ち落した傲慢な銃。
 一人歩きしてしまった『高貴な狩人の銃』。

 刀を抜いて、縁側伝いの庭に下りた。
 猟銃を地面に突き立て、刀を脇に構える。
 この刀を受け取った時、確か「使うことはまず無い」なんて言われたっけ。

 思い切り剣を振った。
 硬い音を響かせ、軽い手応えを残して、中央から真っ二つに分かれた猟銃は、敷き詰められた細かい砂利の上に落ちた。

  ◇

 妖怪の山は今日も平和だ。風が走る音くらいしか聞こえない。

 見回りを終えて、少し空いた時間で、父の眠る場所へと足を運ぶ。かつて厳重に封鎖されていたその地は、今は誰でも入ることが出来る。その支配者がいた白い台座のあった場所には、代わりに小さな白い石碑が立っている。
 この地に眠る全ての命の為の、ちっぽけな墓標に、手折ってきた楓の小枝を供して、少しだけ眼を閉じる。

 眼を開くと、鳥の声が聞こえた。
 その場を後にする。

 今日はいい天気だ。普段瀧の傍に居るから気が付かないけれど、日差しはどんどんと熱量を増している。きっと、今年の夏も暑くなる。

 山を飛び越えて、人里を素通りして、鬱蒼とした森に建つ、ぼろぼろの道具屋さんへやってきた。扉を開けると、中は結構涼しい。風通りが良いわけでもないのに、不思議だ。

「こんにちは。森近さん」
「いらっしゃい、椛ちゃん。仕事の調子はいかがかな?」
「いつも通りです。ところで文さんから『会ったら殴れ』って言われてるんですけれど……どうします?」
「やめてくれ。……たのむから射命丸みたいにならないでくれよ? 新聞で硝子を割るような女になっちゃいけないぞ?」
「……気をつけておきますね」
「やれやれ。それで、今日はどういった物をお求めで?」
「大将棋の盤ってありますか?」
「へえ、大将棋か。珍しいな」
「ええ。始めてみようかと思って」

 父の残した退屈が、少しだけ好きになれそうな気がした。




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                               終   20100527
                             (20110329 加筆修正)
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傲慢な銃 | 【2011-05-17(Tue) 00:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(2)
コメント

凄く面白かったです!
2013-04-15 月 20:38:00 | URL | mm #- [ 編集]

続編を期待します!
2013-11-22 金 12:40:54 | URL | #- [ 編集]
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