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あめふら

Author:あめふら
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『OVERCOLL2』 とらのあな
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傲慢な銃 第七章
第六章の続きです。未読の方は先に第六章をお読み下さい。


 真夜中の『天狗隠し』が人知れず張り詰めていた。
 文を除いた八名の天狗が、一人の男と対峙している。まるで互いに刃を突きつけあっているような一触即発の緊張感がある。
 しかし両者の態度はまるで対照的であった。
 猟銃を抱えた霖之助は、どこか超然として天狗達を見ている。対する天狗達は、どこか恐れを抱いて彼を見ている。目の前の男にはっきりとした脅威を感じていながら、どう対応すればいいのか解らないでいる。そのような眼で霖之助を睨んでいる。
 誰も一言も発しない。誰もその場から動かない。向かい合ったまま、時間が止まっている。

 文の拘束が弛められた。霖之助の登場で、彼女に対する警戒レベルが一つ落ちたのだろう。服に付いた土を払い落としながらゆっくり立ち上がると、文はようやく霖之助の全身を観察することが出来た。

 あれが例の銃か。
 霖之助の抱える猟銃は、文が想像していたものよりも一回り小さかった。片手で簡単に抱えられる程度の長さだ。
 あの銃が『天狗隠し』の正体? 気が抜けるくらい普通の猟銃だ。しかし周囲の警戒が普通の銃では無いことを証明している。
 文はぴんと来た。そうか、あれが本当に天狗を殺せる銃ならば、それを所持する人間は天狗を殺せる人間となるのか。『天狗隠し』の封鎖は、同族の安全を守るためではない。あの銃が誰かの手に渡らないよう、閉じ込めておくためのものなのだ。ということは、それを破ってしまった店主さんはどうなる?

「双方動くな」
 突如、地の底から響くような低い声が天から降った。その場にいた全員の視線が空に集まる。巨大な翼を広げた老天狗が、霖之助と天狗たちの間に降り立った。それが誰なのか悟った瞬間、文の顔から血の気が引いた。
 大天狗様だ!
 まずい。この状況は非常にまずい。暴れている最中に、既に連絡をされていたのだろうか。てきぱき行動しやがって、おかげで随分と速いご到着だが、問題はそこではない。何故大天狗様が直々に現場を訪れたのか? つまりこの場は今、そういう状況なのだ。『天狗隠し』は天狗のボスが自ら動かねばならぬほど根の深い問題であり、場合によっては即座に首を刎ねられてもおかしくない。

 大天狗と霖之助は無言で睨み合っている。誰も一歩も動けなかった。
 心臓に悪い、と文は思った。出来ることなら今すぐに彼のそばに駆け寄って、平手打ちの一発でもお見舞いしてやりたい。
「要求はあるか」
 長い沈黙を破って、大天狗が口を開いた。
「久し振りに山を歩いたので、風呂に入りたいですね」
 霖之助は頭を掻きながら言った。文は立ち眩みを覚えた。どっと汗が吹き出た。お願いだから黙ってくれ。そんな冗談が通用する場面じゃないだろう! どんな神経をしているんだお前は!
 店主はお構い無しに続ける。
「それと、少々怪我をしました。簡単な治療をお願い出来ますか?」
 と、彼の発言で初めて気がついた。暗くて解らなかったのだが、よく見れば霖之助の左腕から血が滴り落ちている。血のせいで袖口はすっかり赤く染まっている。出血は少なくないらしい。入ると死ぬ、という滅茶苦茶な空間に入ったのだ。無傷で出てこられる訳がないか。
 急に不安になった。彼は大丈夫なんだろうな?
「いいだろう」
 大天狗が言った。
「お前の身柄は我々が預かる。その傷が癒えるまでは危険を加えないと約束しよう。その代わり、貴様はその銃から片時も手を離すな。良いな?」
 文は目を丸くした。何だ、その条件は? 武装を解除をしないどころか推奨するなんて。どういうことだ?
 しかし周りを見てみると、納得がいっていないのは自分だけらしい。他の天狗たちは固唾を飲んで霖之助の一挙一動を見守る。
 あの銃には天狗を殺す以外にも、何か秘密があるのだろうか。そもそも、あの銃は一体なんなのだ?
「警備隊はこの場に残り確認を行え。終わり次第報告せよ。射命丸、お前は付いて来い」
 霖之助が頷くのを確かめて、大天狗は文を振り向いた。文の肩がぴくんと跳ねる。ああ、色々考えるのは後にしよう。本当に抹殺されるかもしれない。
「……店主さん……」
 呟いた台詞に、思いがけず返事が返ってきた。
「失礼、どちら様だったかな?」

 この言葉が、文の胸にどれほど冷たく刺さったことだろうか。
 ……ああ、そういうことか畜生!! 私だけ仲間外れか! お前一人だけ悪者か!
 歯を食いしばり、顔を上げた時には既に霖之助は姿を消していた。文は彼のいた空白をじっと睨んでいた。

  ◇

 山の中腹にある天狗の事務所は、よく神社と寺院を混ぜこぜにしたような建築だといわれるし、実際そんな感じである。その奥の普段足を踏み入れたことも無いような一室で、私は待機を命じられている。
 不安が拭えなかった。何が起こっているのか解らない。文さんと森近さんは一体どうなったのだろう? 六畳の部屋がやけにがらんと感じられて、何ともいえず心細い。小さくなっていると、小さな音を立てて障子が開いた。
「……椛?」
 文さんが心底意外そうな顔で立っていた。
「文さんっ!!」
「え? それじゃあ、大天狗様に通報したのって椛だったの?」
「何をやっているんですか!! あんなに暴れて、どうなるか解っているんですか!!」
「……ああ、そっか、あなた見てたのね?」
「見てましたよ、ずっと!! だって文さん何か変だったし、森近さんも」
「ストップ」
 文さんが私の口を塞いだ。
「……ごめん椛。あまり大きな声は出さないでほしいの。いい?」
 頷くと、口元の手はゆっくり離れていった。
「……森近さんは?」
「今は別室で手当てか、風呂か、事情聴取されてるわ」
「無事なんですね?」
「うん」
 ほっとしたら全身から力が抜けた。倒れこむように、文さんの胸に顔をうずめる。文さんはそのまま私の頭を軽く抱いた。
「ごめんね、心配かけたね。……そのままでいいから答えてくれる? 解る範囲でいい。店主さんは、あの中で何をしていたの?」
「……『天狗隠し』の中には、一本の猟銃があるんです。森近さんはそれを……」
「持ち去ったのね?」
「いえ、その前に……自分を撃ったんです」
「…………はあ」
 文さんが私を抱えたままその場に倒れた。
「ちょっ! 文さん?」
「……駄目。お手上げだわ。あの人が何を考えているのか全然解らない……なんなのよあの男は……」
 文さんはそれきり黙ってしまった。
 私にだって解らない。森近さんは、何を思ってあんなことをしたのだろう。この目で見た、彼が銃口を自分に向けて、躊躇わずに発砲する光景は、まるで儀式か何かのようだった。そうすることに何の疑念も抱いていないようだった。だから見ていても、一瞬、何がおかしいのか解らなかった。
 直後、我に返って戦慄した。脇目も振らずに報告に走った。正直、どんな報告をしたのかはよく覚えていない。噴き出した血の飛沫がしばらく目に焼きついて離れなかったのだ。森近さんが無事と聞かなければ、数日の間悪い夢を見ていたと思う。本当に安心した。少しの間、抱き枕に甘えた。
「あの銃は……何なんでしょうね?」
 呟くと、やや間があって、返事が返ってきた。
「……何なんだろうね」
「森近さんに訊いたら教えてくれるでしょうか?」
「教えてもらうわよ。勝ち逃げなんて許さないんだから……」

 しばらくすると寝息が聞こえてきたので、文さんの腕からそっと抜け出した。疲れているんだろう。あれだけ暴れたのだから当然か。凄かったなあ。まるで風神が降り立ったみたいだった。
 彼女をそこまで駆り立てたものは何だったのだろう? それは森近さんだろう。
 では森近さんを『天狗隠し』へ導いたのは何だったのか? それは……あの銃なんだろうか?
 解らない。
 けれど、多分もうすぐ解る。
 何となく寝ている文さんの髪を撫でてみた。びっくりするくらいさらさらで、少し、羨ましくなった。

  ◇

 三日後、私達は再び大天狗様に呼び出された。
 通された先の大広間には、まさに社会の顔とも言うべき錚々たる面子が集められていて、それが扉を開けた瞬間一斉にこちらを向いたものだから、危うく私は気絶しかけた。
 しかも、その後案内された席は何故か彼らを差し置いた最前列だ。つまり、真正面に大天狗様が居る。
 非常に居づらい。プレッシャーが半端ではない。心臓が止まりそうだ。隣の文さんも顔を白黒させている。
「あやや……これは……予想外ですよ?」
「……どうして私達ここにいるんですか?」
「関係者だからでしょ。多分、ここにいる方々も皆、『天狗隠し』の関係者達ね。『天狗隠し』が機密だってのは教えたでしょ?だから自然、関係者も上層部に片寄るのよ」
「……それ聞いた時は気が遠くなりましたよ」
「私は今気が遠くなっている真っ最中よ……」
「そんな! 置いていかないで下さい!」
 小声で交わしていると、扉が開いて、辺りは急に静まりかえった。
 右手に猟銃を担いだ、森近霖之助が会場に入ってきた。
 静寂はすぐに小さなざわめきに変わり、話題の中心人物は台風の目のように悠々と、私達の前に座した。私達のことなど、まるで意に介していないようだ。恐らく意図的にそうしているのだろう。彼は彼なりに、私達に気を使っているのだ。
「関係者のみと伺っていたのですが、何故このような規模になったのでしょう?」
 居心地が悪そうに森近さんは大天狗様に話しかけた。
「この場に居る全員が関係者である」
「……帰りてー」
 ぼそりと放った一言が私達の心臓をもれなく凍つかせた。やめて。お願い。心臓に悪い。
 大天狗様は眉一つ動かさない。それが怖い。冷たい、政治的な眼なのだ。あの眼に見つめられて、何故森近さんは余裕の態を保てるのか。
 文さん共々体を硬くしていると、大天狗様が全体を見渡して叫んだ。
「この者に関する情報は行き渡っておるな? 確認しよう。名前は森近霖之助。半人半妖。自称道具屋だ。三日前『天狗隠し』に不法侵入、銃を持ち出した。その侵入は射命丸によっていち早く察知され、犬走によって通報がなされた。『天狗隠し』の情報を所持していたことについては、内通者である射命丸本人の証言によって情報の流出が露見。この男は始め射命丸の関与を否定していたものの、後に彼女を利用して山の内部情報を入手していたことを認めた。だが二者は当時仲違いをしており、また男の侵入を真っ先に報告したのが他ならぬ射命丸であるため、彼らの信頼関係は低いと見てよく、射命丸に関しては減罪の余地は十分にあるものとする」
「ちょっと待って下さい!」
「不服か、射命丸」
 威圧されて押し黙った。しかし文さんの目は鋭さを失わない。私だって今のは耳を疑う。これじゃあ、森近さんが一方的に悪いみたいじゃないか。この三日の間に文さんから聞いた話とは随分違う。
 じっと、大天狗様の次の言葉を待つ。やがて大天狗様は宥めるように言った。
「不服だろうな。これは真実を都合のいい方向から眺めて加工したものだ。事実とは呼べるが、真実とは呼べぬ。解っておる。だが都合がいい。波風が立たぬ。何よりこの男がそれを推奨しておる。故に、この場ではこの事実を用いる。心配せずとも、お主にはきちんと罰を与える」
「……気に入らない」
 文さんがぼそりと言った。多分、私にしか聞こえなかった。
 森近さんがちらりとこちらを向いたが、その顔はどことなく不機嫌そうに見えた。

「さて、そろそろ始めるとしよう」
 大天狗様が低い、それでいてよく通る声で言った。
「まず述べておきたいのは、これは裁判ではない。彼の者に対する判決は既に決定しており、それは覆らない。この集会は、『天狗隠し』で彼の者が何を行い、結果何が起こったのかを、当人の口から説明させることを目的とする。不審点があれば問い質すのは構わんが、流れを遮らぬ程度に留めておけ。重要なのは彼の者がこの銃を今後どのように扱うのかを、我らの前で明言させることにある」
 自然と背筋が伸びた。いよいよだ。会場にも緊張が走る。『天狗隠し』の秘密が明らかになる。父の、沢山の天狗の命を奪ったものの正体が明らかになるのだ。

 森近さんはおもむろに立ち上がると、聴衆に振り返り語りだした。
「明らかにしておきたいのは、僕にはこの銃を使う意思はありません。『天狗隠し』に入ったのも純粋に興味の為であり、決して天狗の社会、ひいては妖怪の山を掻き乱そうなどという思惑があったわけではありません。といっても信じていただけるか自信がありませんので、今から証拠をお見せしましょう」
 と、彼は手に持った銃を床に放した。
 途端に大混乱が起きた。ある者は逃げ出そうとし、ある者は森近さんに襲い掛かった。
 あっけに取られていると、大天狗様が一喝し、その場を治めた。
「この銃は、今はただの銃なのです」
 自分の席を離れていた天狗たちが、ぞろぞろと元の位置に戻り始める。私は文さんと顔を見合わせた。何が起こった?
「今の反応を見る限り、どうやら関係者といえど、この銃について全く何の知識も無い者もいる様子ですね。なので、大多数の方はご存知だと思いますが、僕自身確認の意味も込めて、この銃に関する説明をさせていただきたいと思います。僕は里で道具屋を営んでおりますから、この手の知識はそれこそお手の物なのです」
 森近さんがちらりと私達の方を向いて言った。
「この銃は名称を『高貴な狩人の銃』と言います。高貴な狩人というのは、この銃を所持していた者の呼び名でしょう。用途は『獣を殺す』こと。まあ猟銃ですから、それ以外の用途はありません。と、ここまでならばただの銃ですが、この銃が他と異なるのは、これには規格外の幸が込められているからです」
「『サチ』とは何でしょう?」
 文さんが問う。
「例えばこの銃を使って獲物を仕留めます。死んだ獣から銃弾を取り出して、その弾を使ってまた獲物を仕留めます。これを繰り返して獲物を取るたびに同じ銃弾を使い、或いは息の根を止める時は必ずその銃弾を使い続けることにより、いつしか銃弾そのものに『獲物を仕留める』という呪力がかかります。これを『サチ』と言います。
 この銃に込められたのはそれの更に発展系で、何百何千、場合によっては何万回もの一撃必殺を経験したこの銃は、最早他の結果には満足出来なくなった。恐らく高貴な狩人自身相当な腕前を持っていたのでしょうが、その優秀すぎる腕前だけが幸と共に銃に焼きつき、結果、『撃てば当たる。当たったら即死』なんていう化物じみた銃が出来上がりました。
 それが誰か人の手で管理されているうちはいいのですが、残念なことに、この銃は外の世界では忘れられてしまった。更に悪いことには、なまじ呪力が強かったばかりに、人の手を離れたことでそれが暴走してしまう。つまり、射程範囲内に獣が現れたら、とにかく撃ち殺さなければ気がすまない、暴走状態にある魔弾の射手。それがこの銃であり、『天狗隠し』の正体です」
「『高貴な狩人の銃』という名は我々も知らなかった。一体何処で聞いた?」
 後ろの方から、天狗の一人が質問した。
「道具屋ですから、見たら解ります。正確には僕の能力によるものです」
 私はすっかりあっけにとられていた。遠くから覗き見ていた、このちっぽけな銃が、何人もの命を奪ったのか。
「さて、この銃。獣に対しては比類無き強さを誇りますが、実は人間には全く効果がありません。そうでなければ、僕は『天狗隠し』に入った瞬間、撃ち殺されていますからね。どれ程強くても猟銃は猟銃。獲物は獣でなければならない。それ以外のものを撃ってしまうと、この銃は猟銃としての自我を保てなくなる。つまり、魔法が解けてしまうんです。既に知れ渡っていると思いますが、僕は『天狗隠し』の中で、この銃を使って自分を撃ちました。この銃が積み上げてきた狩人としてのプライドをブチ折ってやったんです。『人を撃ってしまった』という事実を与えてね」
 あの行動にはそういう意味があったのか。儀式のようだと感じたのは、案外的外れでも無かったのかもしれない。納得というか、感心してしまう。森近さんは一体いつからこの銃の正体に気付いていたのだろう?
「妖怪は、この銃には獣と判断されてしまうらしい。獣であれば問答無用で即死させてしまう銃ですから、天狗にとって、いや妖怪にとって、これ程恐ろしい兵器も無いでしょう。撃てば当たる、当たったら死ぬ、しかも自動照準で、引き金は銃自身の判断で引かれる。先程僕がこの銃から手を放した時、まだその特性が残っていれば、今頃僕一人を残してこの場の全員が死んでいたでしょうね」
 森近さんはさらりと言ったが、聞かされたこちらは鳥肌が立った。なるほど大混乱なはずだ。
「しかし、この銃は既に無力化されています。一応、敵意の無いことの証明になったでしょうか?」

「何故そこまでする?」
 別の天狗が疑問を投げかけた。
「お前は最初『天狗隠し』に入った理由を『純粋な興味』と言ったな? ならばその銃はお前にとっての目的でもあったはずだ。銃の持つ呪力に惹かれたからこそ危険を冒しても手に入れたのだろう?」
 文さんと顔を見合わせる。私達もそれが気になるのだ。
 森近さんは頭を軽く振って、
「正直に言うと、僕ではこの銃を持て余します。確かにこの銃は一財産ですが、使う意思が無ければ呪力などあっても仕方がありません」
「捨て置くという選択肢もあった。何故無力化を選んだ?」
「逆に聞きます。何故今までそうしなかったのですか?」
 声の中に鋭さがあった。一瞬、会場静まり返った。
「あなた方はこの銃の存在を知っていました。その特性も熟知していた。知らなかったのは名前ぐらいだ。実験したんでしょう? 『天狗隠し』で。だったらその過程で無力化する方法にも気がついた筈だ。違いますか? だって『天狗隠し』を知って一月しない僕でも気付いたんですよ? 三十年付き合ったあなた達が気付かないはず無いでしょう。知ってましたよね? 人を撃てばこの銃は死ぬって。解ったんなら何故行動しなかったのですか? 僕は半妖だったから念のため肩を撃ち抜きましたけれど、要するに人の体に傷さえ付ければいいんですよ。かすり傷だって構わない。その程度なら、頼み込めばやってくれる人なんて沢山居ますよ。博霊の巫女にでも頭を下げればよかったじゃないですか。何故そうしなかったんですか? 何故三十年も放置したんですか?
 ……当ててみせましょうか。怖かったんでしょう? 人間にしか扱えない妖怪殺しの銃ですからね。それも、その気になれば一人で山中の妖怪を根絶やしに出来る程の力を持った銃だ。それが一瞬でも自分達の管理下から離れるのを、あなた達は恐れたんだ。あの封鎖は『天狗隠し』の中に人間を入れないようにするためのものですね? 徹底した情報操作は外部に銃の存在が漏れるのを極端に恐れた結果だ。
 そして、どうなりました? たった三十年前の事件が風化したぞ? 原因は全く取り除かれないまま、何一つ解決しないまま、おかげで墓参り一つ出来ないじゃないか。どうして無力化できるって解った時点でそうしなかったんです? どうして解ってて放置したんです? どうして内輪でしか解決しようとしなかったんです? 何で誰も人を信用しなかったんですか? どれだけ防御を固めても原因がそのままだったら意味が無いでしょう? このまま永遠に封鎖を続けますか? 違うだろ、何のためにあいつが死んだと思ってるんだ!!」
 その声は、決して大声ではなかったが、しんとした室内にはよく響いた。
「……哨戒天狗の仕事は探知、報告の二段階ですよね? あいつは命まで賭して報告したじゃないか。あなた達はそれを受け取った。その後の対策も完璧だったし、原因を排除する方法もちゃんと見つけた。……どうして、そこで止まってしまったんですか?」

 誰も何も言わなかった。みな黙り込んでしまった。
 私には、どちらの方が優れているかなんて解らない。
 三十年前に銃の存在が明らかになったその時から、天狗達は封鎖を決めた。結果、原因は残り続けたけれど、私達は三十年間、何事も無く過ごすことが出来た。
 そして森近さんによって銃は壊された。おかげで天狗は二度と隠れない。けれど、これがもし森近さんでなければ、山の妖怪が残らず殺されていたのかもしれない。

 ああ、でも、そんなことはもうどうでもいいのだ。
 森近さんは、きっと銃の存在を知ったその瞬間から、どんな手段であれ破壊を決めていた。
 父のために。いや、父はもう死んでいるから、やっていることは森近さんの八つ当たりに近いんだけれど……。
 けれど、声が、震える。



第八章(完)へ続く


傲慢な銃 | 【2011-05-11(Wed) 00:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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