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あめふら

Author:あめふら
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『OVERCOLL2』 とらのあな
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『レジンフィギュア・物部ハト』 とらのあな

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傲慢な銃 第六章
第五章の続きです。未読の方は先に第五章をお読み下さい。


「……どうしたんですか?」
 日もすっかり落ちて、猫の目のような月がかかる頃、文さんが酒瓶を抱えて私の元へやってきた。月見酒でもするのだろうかと思ったが、そんな柔らかい飲み方ではない。
「……何かあったんですか?」
 訊ねると、文さんはとろりとした目をこちらに向けて、
「……森近霖之助被害者の会」
 と言って、また杯を空けた。
「はい?」
「あの眼鏡なんか銀髪が金髪になって目が出て角出てカタツムリがヤドカリになればいいんだ……」
「な、何を言っているんですか?」
「何って、あの店主のことよ。まったく、百足が靴下選ぶみたいな顔して……」
「文さん! 言ってること滅茶苦茶です!」
「なにが店だ! この廃墟住まいめ! いっそのことその大好きな店ごと虹の彼方に吹き飛ばしてやろうか!」
「落ち着いて下さい! 落ち着いて下さい!」
 飲みすぎだ。どう考えても飲みすぎだ。というか初めて見る酔い方だ。文さんって酔うとこうなるのか。見た目それ程酔っているようにも見えないのに随分と荒れている。呂律が回っているのに何を言っているのか解らない。
 何があったんだろう? まあ話の内容から考えて、森近さん絡みなんだろうけれど。
「喧嘩でもしたんですか?」
「違う! あの人が一方的に悪い!」
「……ああ、喧嘩したんですね」
「椛はああいう大人になっちゃだめよ? ねぇ椛、次に香霖堂へ行ったら、一緒に店主さんのこと七百回くらい殴りましょう? ね?」
「え! いや、それは、ちょっと……」
「勝手な人だとは知っていたけれどさ……どうせ私のことなんか使い捨ての駒くらいにしか思ってないんだ」
 ほろりと零すように言ったので、
「……森近さんに限ってそれは無いと思いますよ?」
 と返すと、
「騙されてる! あなた騙されてるのっ!」
 と、大きく頭を振っていた。
 ん? 森近霖之助被害者の会って、私も入っているのだろうか? 何かされた覚えは無いのだけれど。
 むしろ森近さんには恩義を感じている。私が今、こうして文さんの顔をまともに見ることが出来るのは、森近さんに気にしなくても良いのだと教えてもらったためなのだ。
 だからあまり森近さんの悪口は言いたくないし、聞きたくない。
 喧嘩はしないでほしいなあ。
 けれど文さんも森近さんも、しょっちゅう皮肉の応酬をしているし、もしかすると喧嘩も日常茶飯事なのかもしれない。案外、文さんも明日にはけろっとしているのかもしれない。だとすると私に出来ることは何も無い。それが一番なのだけれど、実際どうなのだろう。
 文さんがまた杯を呷った。そろそろ止めた方がいいかもしれない。

 射命丸文は考える。お酒を飲んでいるのにさっぱり面白くない。それもこれもあの偏屈眼鏡のせいだ。
 悔しいことに、彼の言い分も解る。これ以上ことを荒立てては、他の誰でもない私たちが危ないのだから。それを考えると、今の私の行為はほとんど八つ当たりみたいなものだ。私だって完璧な女じゃないのだ。八つ当たりくらいする。それで飛んだ酒代は後で彼に請求してやる。
「あの、文さん? そろそろ止めた方が……」
 椛が心配そうな顔で覗き込んできた。
 やめません。私はこの程度じゃ酔いません。
 ああ、あの人に椛の万分の一でも他人を思いやる気持ちがあれば。無理だろうな。少なくとも森近霖之助という人間の一部は、孤高であることによって成立している。面倒くさい男め。眼鏡の度とか、ずれればいいんだ。
「とりあえず、その飲み方はやめましょう? 死んじゃいますって」
「死にません。天狗はこの程度じゃ死にません」
「いや解ってますけれど……」
 椛が眉を八の字に曲げながら言った。
 そうだ。天狗はこの程度じゃ死なないのだ。山中の妖怪筆頭を甘く見るな。腕を落とされようが胸を貫かれようがそうそう簡単に死んでたまるか。

 ふと、手が止まった。
 急に頭が冷えた。
 待てよ? じゃあ何で『天狗隠し』では死者が出ている?
 天狗が死ぬってどういうことだ? 何をされれば天狗は死ぬ?
 考えろ。何故天狗は『天狗隠し』を隠した? 危険だからだ。何故危険だ?
 『天狗隠し』の中にあるのは一本の銃だ。銃なんて普通に考えれば脅威じゃない。それが何故封鎖までされた? 簡単だ。何故今まで気付かなかった!
 普通の銃じゃないんだ! 全力で隠さなければならない程の脅威だったんだ! あれは天狗を殺せる銃だ!
 途端、背中に氷柱を通されたような気持ちになった。嫌な予感がする。彼はこの事実に気付いているのだろうか? 気付いているに決まっている。
 考えろ。私と彼が持っている情報の量はほぼ同じだ。私なら次に何をする? あの男は次に何をする? 彼は本当にこの程度で止まるような奴か? 違う。これ以上の詮索は危ない、監視までされているというのは、それは私達の話だ。 彼はどうだ? ノーマークじゃないか!
 考えろ。何をする? 彼は次に何をする?
 ……まさか?
「ごめん、椛、ちょっと来て!」
「え? あの、どうしたんですか?」
「いいから!」
 慌てて椛を表に連れ出す。辺りはすっかり暗いが、彼女の視力ならば何とかなる。
「椛、ここから『天狗隠し』って見える?」
「へ? 『天狗隠し』ですか? 暗いですし、そう鮮明には……ていうか本当にどうしたんですか? 顔つきが……」
「いいから!」
「は、はい!」
 何が何だか解らないといった顔をしながら、椛は高い木の枝に跳び乗って、遙か遠方を見つめだした。
 私も横に並んで食い入るように同じ方向を見る。もちろん何も見えない。我ながらどうかと思うくらい落ち着かない。杞憂であって欲しい。ああ、どうして私は彼から眼を離したんだろう!
「あれ? 森近さんがいますね? 何やってるんだろう?」
 脳天に強烈な一撃を喰らったような衝撃が走った。
 やりやがったあの馬鹿!!
 そうだ、私はあの時『天狗隠し』の場所を地図に残したんだ!
「ありがと、椛。ごめん、ちょっと出かけてくる」
 椛の顔を見る余裕も無く、思い切り羽を広げた。指先を動かして巻き起こる風を掴み、大気を蹴る。空気を裂く。後には風しか残さない。急げ。取り返しが付かなくなる前に、彼を止めないといけない!

 文の姿は瞬く間に闇夜に消え失せた。後を追う突風が大木を柳のようにしならせる。
 一瞬の出来事に、問い質すことなど勿論出来ず、椛はただ吹き飛ばされないように木にしがみ付くのが精一杯だった。
 風は吹き続け、嵐の去った後には水銀のような沈黙が残った。
(……台風だ)
 何があったのか解らない。けれど、何か大変なことが起ころうとしているのは解る。
 残された椛はただぽかんと、風の消えた方向を見つめるしかなかった。

  ◇

 夜を裂くように猛スピードで空を飛ぶ鴉が一羽。
 射命丸文は今、風の塊となって一直線に突き進む。
 一秒でも速く『天狗隠し』に向かわねばならない。一秒でも速くあの馬鹿を止めねばならない。天狗の社会が三十年も隠し続けて来た秘密だ。接触なんてしてみろ。お前は天狗全体に喧嘩を売ることになるんだぞ?
 暴風を引き連れて、轟音を伴として矢のように飛んで来た一羽の鴉は、しかし『天狗隠し』を目前としてビタリと足を止めた。
 ……私は『天狗隠し』の中に入れるのか?
 謎に包まれた『天狗隠し』の、ただ一つの明晰化された法則は、「入ったら死ぬ」というシンプルな危機だ。考え無しに飛び込むのには抵抗があった。しかし考えなど無かった。ここにきて文は初めて、自分がいかに無謀な行動に出ているのかを悟った。
 どうする? 暗い森を悔しそうに眺めながら頭を働かすが、気ばかりが焦る一方だ。
 店主さんは、どうやってこの中に入ったんだ?
「そこの天狗止まれ!」
 突如足元から声と共に竜巻が吹き上がった。竜巻の中から、ひらりと一人の天狗が現れる。
 しまった、見つかったか! 流石に闇夜の鴉とはいかなかったらしい。
 厳つい顔をした天狗は、ひどく事務的に言った。
「ここから先は危険区域ゆえ立入禁止である。即刻この場を立ち去れ。従わぬ場合、我々は汝を攻撃する許可を得ている」
「その危険区域に馬鹿が一人入った筈よ」
 文も平坦な声で返す。偶然を装って誤魔化す事も出来たが、そうしなかったのは、明らかに『天狗隠し』の前で立ち止まっている姿を見られた可能性もあったからだ。
「そのような事実は無い。即刻立ち去れ」
「せめて確認取ってから言いなさい。『天狗隠し』の警備は一人じゃないんでしょ?」
 相手の天狗は無表情に、鳶のような目で文を睨みながら、右手で葉団扇をひらめかせた。風が巻き起こる。
「……どこでそれを知ったのか聞かねばなるまい」
「今はそんなこと問題じゃないでしょう。馬鹿が一匹入ったって言ってんのよ! あんた達の警備はザルか?」
「ザルの目は相当細かいつもりだ」
 と、相手がまだ言葉を言い切らないうちに、不意を付いて横を一気に通り抜けようとして、張り巡らされた風の壁とまともにぶつかった。思わずよろめいた頭上に竜巻が起こった。避けきれずに地面まで真っ逆さまに叩きつけられた。
 風圧に潰されて立ち上がれない。苦し紛れに風の刃を放ってみたが弾かれた。
 流石、三十年間皆勤賞め。簡単に通してくれるような雑魚では無いか。
 体を捻り、何とか葉団扇をふるって、逆向きの風をぶつけて竜巻を相殺する。戒めの緩んだ一瞬を付いて、風の範囲から飛び出した。店主さんはこの警備を気付かれずに潜り抜けたのか? 一体どんな魔法を使ったんだ!
 鳶のような目の天狗は、片時も文から目を離さなかった。
「三番より各員へ。巽にて侵入の意思を持った鴉が一。機密漏洩の疑い有り。集合し捕獲する。六番は周囲を見回り他の侵入者がいないか探せ」
「……女一人に何人がかりよ?」
「実力者とお見受けしたのでね」
 もっと油断しろよ、と文は思う。まあ無理な話だ。口を真一文字に敵を睨み上げる。
 増員されるのは単純にまずい。一度引くか? いや無理だ。それとも事情を話しておとなしく捕まる? 却下。
 残る選択肢は……
「悪いけど構ってる暇が無いの。それ以上に構わなきゃいけない馬鹿がいるのよ!」
 人の頭の上で泰然としている天狗に突風を浴びせかけた。直撃は外されたが、それでいい。体勢を立て直す時間は稼げた。
 これで社会から干されたら、店主には絶対に責任をとってもらおう。
 やれやれ、当の馬鹿はいったい何処にいるんだ?

  ◇

 『天狗隠し』の中は静かだ。獣の足音、鳥の鳴き声一つ耳にしない。
 その中心部、丁度地面がその数メートル四方だけ、白骨によって白く染まった、台座のような場所に、森近霖之助は立っている。
 彼の耳には、ただ遠く風の音が僅かに届く。
 静寂の理由は、夜だからではない。
 台座に転がる一本の猟銃が、異様な存在感を持って空気を支配している。
 猟銃と霖之助は向かい合っていた。その間は二メートルも無い。霖之助の目は猟銃を捉え、猟銃はその銃口で霖之助の眉間を捉えていた。
 猟銃は銃口を吊り上げるような不自然な形で、空中に斜めに止まっている。霖之助が移動すると、猟銃もそれを追いかける。銃床だけは地面に固定されているらしく、その動きはさながらコンパスのようである。
 異様な光景であった。
 銃が、己の意思でその先端を相手に突きつけている。
 そして静かであった。霖之助の歩く、ぱきり、ぱきりという骨を踏む音が、かえってその静寂に冴え冴えとした冷たさを与えていた。

「名称『高貴な狩人の銃』。用途『獣を殺す』」
 霖之助が猟銃に語りかけた。
「高貴な狩人っていうのは、君の持ち主だった人かい?」
 猟銃は答えない。ただ真っ直ぐに霖之助の額を見据えている。
 はたから見れば、猟銃に向かって話しかける危ない男である。しかし、この場に流れる空気が、その奇怪な行動を軽く呑み込んでしまう。この場では彼のとる行動が最も正しいのだと、有無を言わさぬ迫力を持って空間を覆う。
 ゆっくりと、回り込むように歩いた。猟銃もそれに続く。
「待ってるんだったら、来ないぞ」
 足を止め、猟銃を見つめた。
「君は忘れられたからここにいるんだ。いくら自分の能力を証明してみたところで、君を扱う人間はもうこの世にはいない」
 言い聞かせるように語りながら、猟銃を拾い上げた。長い間風雨に晒されてきたにしては、不思議と目立った汚れも無い。霖之助はその銃身を優しく撫でた。猟銃は何も答えない。
「死ぬべき時に死ねなかったのは哀れだと思うが……」
 そして自分の左肩に銃口を押し当てると、
「お前はやりすぎだ」
 躊躇い無く引き金を引いた。

  ◇

 『天狗隠し』の外周でぶつかっていた風が止んだ。
 風の一つだった射命丸は、今や一人の天狗によって地面にうつぶせに組み伏せられて、それを更に七人の天狗が囲んでいた。
 後ろ手をとった天狗が、小さく息を切らしながら言う。
「誰かと思えば射命丸じゃねえか。今度は何しようとしてたんだ? 手間かけさせやがって……おい、誰か報告行ってこい!」
「その前にすることがあるでしょう!」
 文が叫んだ。
「不審者はいたか?」
「いいえ」
「外側じゃなくて中よ、中!」
「お前も聞いたことがあると思うが、天狗はこれ以上中へは入れんのだ」
「天狗じゃないのよ、その馬鹿は!」
 とたんに、彼女を取り囲んでいた天狗達の表情が変わった。
「それを先に言わんか馬鹿者!!」
「は?」
 この変化は予想外だった。どういうことだ? 『天狗隠し』に天狗以外が入ると問題があるのか?
 と、聞き覚えのある声が思考を遮った。
「随分賑やかじゃないか」
 暢気な声が、文を除く天狗達の間に戦場のような緊張を走らせた。
 首を捻って声の方向へ顔を向ける。視線の先では、森近霖之助その人が、一本の猟銃を携えて森の中から出てくるところであった。



第七章へ続く
傲慢な銃 | 【2011-04-18(Mon) 00:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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