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あめふら

Author:あめふら
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pixivで描いた漫画をまとめました。


『OVERCOLL2』 とらのあな
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作ったものを売っています。


『レジンフィギュア・物部ハト』 とらのあな

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傲慢な銃 第四章
第三章の続きです。未読の方は先に第三章をお読み下さい。


 射命丸文は考える。
 なぜ引き受けてしまったんだろう?
 私はジャーナリストだ。これ以上首を突っ込んだら危ないというラインは一応把握している。ならば私がこれからしようとしていることは社会的な自殺に他ならない。
 しかもこの依頼による射命丸文に対するメリットは全く無い。
 あるとすれば、記者としての好奇心、探究心、冒険心、知識欲、それらにまつわるスリルといった感情を満たせる。ああ、あと、あの偏屈店主に褒めてもらえるかもしれない。
 その程度だ。馬鹿げている。なのに、気持ちが高鳴る一方なのは、やはり私がジャーナリストだからなのだろう。何かが隠されていると気が付いてしまった。気が付いたら、それを野放しにはしておけない。真実に近寄りたい。そのためなら損得抜きでも行動出来る。私はいつかこの性格で身を滅ぼす気がする。そしたら、あの店主には絶対に責任を取らせてやる。

 さて、文は現在、犬走氏の死亡記録を漁ったのと同じ灰色の壁の資料室の中にいる。
 部屋の中には文の他にもう一人、何か調べ物をしている風の天狗がいるのだが、文はその顔に見覚えがあった。最近、資料室に出入りした時にも全く同じ顔を見たのだ。
 考えすぎならそれで構わない。しかし、機密資料ならまだしも、一般資料の棚を漁る文にどういう訳だか付いた専属の監視だとするならば、この天狗は何かしら上部との繋がりを持っているということになる。
 そこで文は、今回はこそこそせずに堂々と資料を漁った。メモを取るときも、僅かに相手に見えるような角度で書いてやる。監視など気付いていない、或いはそれどころじゃない風を自然に装う。
 相手も特別こちらを気にした風ではない。しかし気にしていなさすぎだろう。これだけ賑やかであれば、少しはこちらを向いてもいいのに、とするとあえてこちらを振り向くのを拒んでいるのか。
 釣りは順調である。さて、いつ喰らい付くか。
 それまでの時間は資料の整理に当てさせてもらおう。霖之助と共に導き出した仮説を並べれば、事件の凡その流れはこうだ。

 一、三十年前、犬走氏が偵察中、山の外れに何かを発見。マニュアル通り現場に向かい、そのまま死亡。
 二、失踪した犬走氏を探す過程で『天狗隠し』の存在が明らかとなる。二次災害的死者多数。
 三、『天狗隠し』に本格的な調査が入る。「近づいたら死ぬ」という特性が判明する。死者多数。
 四、安全面を考慮して封鎖を決定。

 ここまでが三十年前の出来事である。何度繰り返し眺めても、対応に不審なところは無い。そもそも『天狗隠し』という場所自体存在しないのではないかという勘繰りもあったが、事実これ程の被害が出ているのだから流石にそれは無いだろう。
 しかし、あらためて滅茶苦茶な場所である。「近づいたら死ぬ」って何だ? 危なすぎる。確かに霖之助の言う通り、場所くらいは教えてもらった方が安心だ。
 さて、現在。

 五、『天狗隠し』に関する位置情報の封殺は完成されている。椛は例外。
 六、椛によると『天狗隠し』の中には銃が落ちている。→この銃が原因?

 霖之助はこの銃の存在に確信を得たいらしい。鎌を掛けろと言ってきたのはそのためだ。
「『天狗隠し』の秘密、イコールこの銃の存在ならば、それを掴んだ君には何かしらの反応が返ってくるはずだ」
 簡単に言ってくれるなあと文は内心頭を抱えた。釣れる魚は大きいけれど、大きすぎて釣り人ごと海に引き込みかねない。もちろん引き込まれるつもりなんて更々無いが、腕の一本くらいは覚悟した方がいいのかもしれない。なんで引き受けちゃったんだろう? そんなに店主に褒められたいか、私は。

 昨日考えた河童犯人説は消した。仮に河童が犯人だったとして、個人でなく無差別に天狗を襲った理由が解らない。もしや天狗という種族全体に強い憎悪を感じていたのかもしれないし、或いは新兵器の試し撃ちか、単に錯乱していたのかは判別つかないが、天狗だってただ当たるのを待っている矢場の的では無いのだ。同朋をポコポコと撃ち落されて黙っている我々ではない。戦争だ。一人残らず皿を砕いてやる。少なくとも犯人は生かしておかない。そして末代まで記録を残すだろう。しかしいくら探しても、そんな記録も事実も無かった。だったら普通に「何も無かった」と考えた方が現実的だ。河童は関係ない。そもそも銃器イコール河童という連想は安直過ぎた。
 勿論、事実はやっぱり河童の手によるもので、その後河童たちと何らかの取引があって天狗はそれを了承し、結果今に至るまで事実が高度に隠蔽されているという可能性もゼロでは無いが、そうなると今度は封鎖を続けている意味が無い。
 『天狗隠し』で最後の死者が出たのはもう三十年も前である。それが未だに警備の者を立て、頑なな封鎖を続けている。となると、被害が出ていないだけで『天狗隠し』の脅威そのものは消えていないと考えるのが自然だ。獣一匹通さないという完璧な封鎖体制で、その脅威は封じ込められている。おかげで一般の天狗達は今日も暢気に空を飛ぶことが出来る。

 あや?
 ここまで完璧なガードを誇るのなら、別に場所を公開する必要も無いのか?
 元々が誰も通らない場所なのだ。下手に公開して野次馬を増やすより、何も知らせないまま普段通りの静けさを維持した方が安全ってことじゃないのか? 私自身、『天狗隠し』の場所を知らなかったことで不便を感じたことは一度も無い。場所非公開って実はそういうことなんじゃないだろうか? そう考えると現在の対応にも不審点なんて何も無い。
 ……あや?

 と、資料室に居たもう一人の天狗が呆れたように話しかけてきた。
「……射命丸、随分熱心じゃないか」
 かかった! 思わず浮かび上がったほくそ笑むような表情を一瞬で噛み殺し、全く普段の調子で振り返ると、
「あやや、すいません。うるさかったですか?」
「いや、まあ……うん。五月蝿かったけどさ。いったい何をしているんだい?」
「何って? 調べ物ですけど」
 と、手元を広げる。
「それは見れば解るって。いやね、足で稼ぐタイプの君が資料室でばたばたしてるってのも珍しいからさ。何か面白いネタでも見つけたのか?」
「それは秘密ですよー!」
「そりゃそーだ」
 二人の口から、からからと笑い声が上がった。
「で、熱心に眺めてたその資料は何さ?」
「なに? 盗む気満々ですか? やだなあ」
 覗き込んできた相手に見えないよう本を抱きかかえたが、すぐに元に戻すと、
「ま、隠す程のものでも無いんですけれどね。ほら、『天狗隠し』ってあるでしょ? あれです」
「はー、また変な所に目をつけたねえ。それでどういう記事を書くつもりだ、君は?」
「そりゃあ、あれだけ謎めいた場所ですからね! ロマンとオカルトの塊ですから、どんな風にだって書けますよ!」
「また捏造か!」
「またって何ですか! ていうか捏造って何ですか!」
 文は机を叩いて立ち上がる。
「心当たりが無いとは言わせねえ」
「言っておきますけれど、私のは捏造じゃありませんよ。悪意なんてこれっぽっちも無いんですから。ただの誇張です!」
「余計に悪いわ!」
「ま、書いたとしてもアレですよ。
 『天狗隠しで未確認飛行物体捕捉!! ~幻想郷はアブダクションされていた!?~』とか
 『天狗隠しで巨大アリクイの目撃情報多数!! ~その謎に包まれた生態に迫る!!~』とか
 『恐怖!! 天狗隠しに響く呪われた銃声!! ~八つ墓村とスケキヨの亡霊妖怪の山に立つ!!~』とか、その程度ですよ」
「やりたい放題じゃねーか! ……ま、程々にしとけよ」
「ご忠告感謝しまーす」

 ニヤニヤしながら背を向けた。私、女優やれるかもしれない。
 さあ、餌は撒いた。はたして反応は返ってくるのだろうか? それはどんな形で返ってくるのか? それまでにどのくらいの時間がかかるのか? 何にせよ、反応があった時点でそれは成果だ。この程度の餌にも釣られるようなら相手はこの件に関して相当過敏だということになる。そのまま情報の真実味と重要度を跳ね上げる。
 とりあえず、私が打つべきは待ちの一手だ。決して積極的には動かない。香霖堂との行き来も少し控えよう。最低限の報告は伝書鴉で済ませておけばいい。店主さんでは無いけれど、しばらく山に引き篭もりだ。私は何もしなくていい。どうしよう、楽しくなってきたぞ。

 しかし……、と文は考える。
 これで何も反応が無かったとするとどうだろうか。単にメッセージに気付かれなかったという可能性もある。それならばタイミングを見て、もう少し露骨に「射命丸が『天狗隠し』の銃を調べている」という素振りを見せてやればいい。
 しかしそれでも何も無かったら、もしかすると『天狗隠し』に隠されているのは、銃ではないということになる。
 そもそも、銃があったところで、それが何だというのだろう? 天狗にとって銃は別に脅威でもなんでもない。相手が引き金を引くよりも天狗の方が速いからだ。弾速なんて余裕で追い越せる。それが、はたして三十年も警戒しなければならないようなものか?
 椛曰く『天狗隠し』には獣一匹いないのだから、普通に毒ガスとか、そういう可能性の方が高い気がしてきた。
 うん。考えれば考えるほど、そっちの方がずっと自然に筋が通る。
 例えば三十年前、犬走氏はその驚異的な視力でもって、『天狗隠し』の上空を飛ぶ鳥が、毒に巻き込まれて落ちるような映像を見たとする。いかにも異変らしいので、行き先を残して偵察に行って……。

  ◇

 一羽の鳥が『天狗隠し』に落ちた。
 不幸なこの鳥は何も知らずに空を飛んでいて、気付かぬうちに命を奪われた。
 空気を叩く力を失った羽根は緩やかな螺旋を描いて墜落し、一本の猟銃の傍らへとその身を横たえる。
 全くの無音である。不幸な鳥は、後は静かに骨となるのを待つだけとなった。
 周囲に散らばる白い物と区別がつかなくなるのには、長い時間はかからないだろう。

 何を見た?
 犬走椛は自問する。私は今何を見た? この眼は今何を捉えた? 見間違いか? そんな馬鹿な!
 銃が自分から動いて飛ぶ鳥を撃ち落した?
 これは異変だ。異常だ。ありえないことだ。『天狗隠し』は自分の担当では無いけれど、報告はしなければ。

 身を乗り出しかけたが、寸での所で思い止まった。
 いや、報告の必要は無いのか。もう十分に対策は採られているじゃないか。『天狗隠し』は三十年前からずっと封鎖されているのだ。ならば封鎖を決めている上層部の天狗達も、今の奇妙な出来事の存在はとっくに掴んでいる筈だ。私が気が付くくらいだから、知っているに決まっている。
 きっと、あの銃は危険だと判断されて……いや、それは言いすぎだろう。天狗の方が銃よりもずっと強いのだ。けれど少なくとも『天狗隠し』の持つ危険性の一部として認識されて、だから未だに封鎖が続いているのだ。

 半分立ち上がった体を、再び枝の上に深く下ろした。二、三度深呼吸をすると、浮かされたような気持ちも大分落ち着いてきた。
 そうだ。『天狗隠し』は三十年前から封鎖されている。ということは、『天狗隠し』の内部は三十年前と変わっていないということか? ならば、あの銃も三十年前からあそこにあって……父はひょっとしてあれを見たのだろうか?

 定時の見回りを終えて瀧の裏まで戻ると、先輩方は相変わらず遊戯に精を出している。
 危機感が無い。
 いや、そうじゃない。オン・オフの切り替えが上手いだけだろう。見回りの最中でもこのような態度だったら、流石にお叱りがくると思う。
 そうでないと困る。

 先程私が見たものを、三十年前の父も同じく見ていたとするならば、当然、父は行動を起こしただろう。
 それが仕事だから。自分の仕事を誇っていたから。
 私も仕事には誇りを持っている。先輩達はどうなんだろう? きっと、持っているに違いないけれど。

 過去に「もしも」は無い。けれど想像することは出来る。あの時こうだったらなとか、ああなっていたらなとか、想像することは出来る。
 もしも父が何も見なければ、もしも『天狗隠し』がもっと早いうちから知られていたら、もしも父が『天狗隠し』に向かわなかったら、もしも同僚の誰かが父を止めていたら、もしも自警団全体の危機管理能力がもう少し高かったら、もしも自警団が私の幼い空想の通りの組織だったら、父は死ななかったのかもしれない。
 勿論、そんなのただの空想だ。父が死ななくても、遅かれ早かれ『天狗隠し』で事件は起こったと思う。あれはそういう場所なのだ。解りきったことなのだ。想像するだけ無駄だと言われれば、全くもってその通り。
 でも時々、私はそういうことを考えて時間を潰している。想像するだけ無駄なことを、何度も何度も何度も考えている。そうやって時間を潰すことがある。練達もしないし、先にも進まない分だけ、遊戯よりも性質が悪いかもしれない。
「ああ、そうだ。椛、何だか呼び出しかかってたよ」
「へ?」
 先輩の一言で現実に引き戻された。

  ◇

 落ち着かない。視線も心もくるくるとして一時も落ち着くことがない。思えばここまで緊張したことは生まれてこの方数える程も無かった。まるで泥の中を進むように足取りが重い。私は何かしただろうか? 頭の中でこの言葉が羽虫のように飛び回る。普段は移動するのも億劫な事務所の長い廊下が、もっともっと長かったらよかったのにと願ったのは初めてだ。目的地まで辿り着きたくない。やらなければならないことと、出来ることならやりたくないことはこんなにも似ていたのか。ここから逃げ出したい。でもそういうわけにもいかない。ああ、私は何をしたんだろう? いくら考えても心当たりは無い。けれど、呼び出されたからにはきっと何かあったのだろう。
 呼び出しのそれ自体は簡素なものであったから、実際は大した用事でないのかもしれない。でもそれならば、わざわざ名指しで呼び出すことも無いだろうし、とするとやはり、私自身気付かぬ内に何かしてしまったんだろうか? 書類の不備だろうか? 勤務態度が悪かっただろうか? それとも異動だろうか? 解らない。何もわからない。書簡が簡素だっただけに恐ろしい。ああいうものには色々想像出来てしまう余地を挟まないで欲しい。

 観音開きの扉の前で、しばらく立ち往生をしていたが、いつまでもこうしていたって仕方が無い。深呼吸を七回。覚悟を決めて扉を叩く。もう後には引けない。もとよりそれしかすることが無い。
 気を抜いたら震えそうな手足を抑えて、重たい扉をぐいと押し開けると、入団時の手続きで一度だけ顔を合わせたことのある上司が待ちわびたように微笑んだ。だが、今の私に笑顔は逆効果だ。ぴんと冷たい背筋が張り詰める。そんな私を刺激しないようにか、上司は柔らかい口調で語りかけた。
「やあ犬走。急に呼び出してすまなかったね。来てもらったのは別に小言を言うためじゃない。だからそう固くならなくていい。といっても、新人にはちょっと無理な話か」
 叱られるのではないと解ったので、尖りきって私をその場に磔にしていた神経も、少しその縛めを弛めてくれた。途端にどっと力が抜けた。危うく涙が出そうになった。
「はい。すみません……」
「はは、初々しいな。呼び出した訳というのは、君に一つ頼みごとをしたいからなんだ」
「は、はい! 私に出来ることならば何でも」
「それは頼もしい。といっても、さほど難しいことではない。内容は普段の君の仕事の延長みたいなものだからね」
「といいますと、何かの見張りですか?」
「監視と言った方が近いな。まあ見張りでも間違いでは無いがね」
「監視?」
「そうだ。犬走家は代々山中の監視役を担ってきた一族だと聞く。犬走の眼に捉えられたら、それは一千匹の狼に追跡されるのと同じだそうじゃないか。こと監視に関して犬走の右に出るものは無い。そう思って君が選抜された。加えて、勤務態度も良好だったしね」
 そう言われて、思わず顔が赤くなってしまった。
「あ、ありがとうございます。……それで、私は何を監視すれば良いのでしょう?」
「射命丸文という鴉天狗を知っているかい?」
 がつんと脳天を殴られたような衝撃に襲われた。今何と言った? 文さん?
「……はい。存じていますが……」
「なら話が早いだろう。彼女の行動をそれとなく監視してもらいたい。なに、さほど厳密にやる必要も無い。それとなくでいい。視界に入ったら追いかけて、視界から消えたら追いかけるのをやめる。この程度でいい。その過程で何か射命丸の行動に違和感を感じた場合、日頃の報告書の隅に小さく印をつけておいてくれればあとはこちらで処理する。何も無ければ報告の必要も無い。簡単だろう?」

 私は話を半分も聴けていなかった。頭がぐらぐらする。
 文さんが? 監視? 私が? 一体何があったのだろう? 何が起こっているのだろう?
 部屋に入る前以上に、頭の中が真っ白になった。




第五章へ続く


傲慢な銃 | 【2011-04-03(Sun) 00:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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