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あめふら

Author:あめふら
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『OVERCOLL2』 とらのあな
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傲慢な銃 第三章
第二章の続きです。未読の方は先に第二章をお読み下さい。


「はい! 王手!」
 ぱちん、と乾いた音を立てた将棋盤を前に、私は沈黙する。先輩や瀧の近くで暇をしている河童などに誘われて、こうして遊ぶことも少しずつ増えてきた。ただ、純粋に楽しめたことは一度も無い。
「参りました……」
 顔を伏せる私に、先輩は笑いながら、
「また私の勝ち! っていうか椛ちゃん弱いよ! 弱すぎ! まー、誘っといて言う台詞じゃないんだけれどさ。なんかここまで弱いと愛おしさすら感じるよ。是非、弱いままで突っ切ってほしいね!」
「は、はあ……」
「でも、それだと椛ちゃんも面白くないでしょ? だからアドバイスくらいはさせてもらうよ。将棋っていうのは短期決戦じゃないの。一局に何時間もかかるような長丁場が基本ね。そこで重要になるのは、いかにして先を読むか。そうね、少なくとも、七手くらいは先を考えておいた方がいいかも。これ、意識するとしないとでは結構違うよ。以上! 先輩からの忠言でした! 何か質問は?」
「あ、いえ、特には……」
「了解。じゃ、そろそろ時間でしょ? いってらっしゃい」
「あ、はい。ありがとうございます」

 いつもの木の上で、膝頭に両手で杖を突いて顔を乗せた。
 別に、先を読むことが、まるっきり苦手なわけじゃない。何時までたっても何度繰り返しても私が弱いままなのは、先輩達のように、遊戯にそこまでのめり込むことが出来ないからだろう。
 先輩達に言ったら、きっと気を悪くする。けれど、私はどうしても、遊びというものを一歩下がった視点から見てしまう。それに没頭するのを拒んでしまう。これで本当に、何かあったときに大丈夫なのだろうかと、虚穴みたいな不安が心の中に残っている。不安だろうか? それとも不満だろうか? 生意気だなあ、私。

 香霖堂で森近さんに逢って以来、父のことを思い出す時間が多くなった。
 記憶に残る一番古い思い出から辿っていって、最後に行き着く場所はいつも同じだ。『天狗隠し』と呼ばれる、封鎖された一画の中で父は死んだ。
 思い出の中の父は私に背を向けて、『天狗隠し』の中へ、霧の中に出港する舟のように姿を消す。そこで追憶は終わる。父がどのようにして死んだのかを知らないから、私は、父が死んだ、というよりも、「消えた」というような印象を未だに持っている。

 いったい、『天狗隠し』の中で何があったのだろう? もちろん調べてみたことはある。けれど、解ったことはとても少ない。仕方が無いことだと思う。調べようにも近寄れない現役の魔所であり、実際に沢山の天狗が死んでしまった場所だ。
 そんな所に、父は何故行ったのだろう?

 過去に戻ることは出来ないけれど、過去を考えることは出来る。だから、私は何度も考えた。その末に出る結論はいつも同じだ。
 父は私と同じ眼を持っていた。私と同じく、見張りを仕事としていた。ならば父は『天狗隠し』の中に何かを見たのだ。
 それが何だったのかは解らない。毒とか、そういったものではないと思う。もっと目に見える形を取った「何か」。それは父の眼には脅威に映ったのだろう。だから確認しに行った。そして、その後の惨状を考えるに、それは天狗全体にとっても脅威だったのだろう。
 それが何だったのかは解らない。
 何もわからない。

 私の眼ならば、この場所からでも『天狗隠し』の中を覗き見ることが出来る。父が死ぬ前に何を見たのか知りたくて、私は何度も『天狗隠し』を覗いた。
 もっとも、そんなことが出来るようになったのは最近になってからだ。父をはじめ、沢山の天狗の命を奪った場所なんて、見るだけで呪われるような気がしたし、あちらこちらに死体の転がっている光景を想像してしまって、とても見ることなんて出来なかった。だから初めて『天狗隠し』を見たときは、そこに何があるのかよりも、生々しい死体が無かったことに安心した。既に事件からは遺体が自然分解されてしまうだけの時間が経過していたから、当たり前なんだけれど、その一歩を踏み出すまでが長かった。

 『天狗隠し』の中は、想像以上に静かだ。動くものが何も無い。鳥も獣もいない。
 ただ、地面に転がる骨の欠片みたいなものとか、昔誰かが使っていたであろう錆びた刀や、盾、衣服の切れ端のようなものとか、何かの破片だとか、そういったものの存在から、何だか解らないけれど、過去、ここで何か恐ろしいことが起こったのだということは嫌でも窺い知れる。
 それだけだ。結局何もわからない。ヒントになるようなものは何も無い。
 そもそも、父と私が同じ光景を見ているという保証は無い。父の見たであろう危険な「何か」が、今でもそのままその場所に留まっているのかどうかも解らない。案外、一過性の凶悪な台風みたいなものだったのかもしれない。

 何時までも覗いていたって仕方が無い。視線を戻して、山を広く、ぼんやりと眺める。今日も今日とて平和な山だ。鳥の鳴き声くらいしか聞こえない。
 ふと、見覚えのある銀色の髪が山道を歩いてくるのが眼に入った。
 森近さんだ。
 これといった荷物も持っていない。暢気に辺りを眺めながら、ピクニックでもしているみたいに歩いてくる。何をしに来たんだろう? 座っていた木の枝を思い切り蹴って、森近さんの前にひらりと飛び出した。

「こんにちは、森近さん」
 森近さんは特に驚いた様子も見せずにこちらを向いた。まるで私が来るのを知っていたみたいだった。
「やあ椛ちゃん。どうだい? 仕事は順調かい?」
「ええ、まあ。森近さんはどうしてここに?」
「ちょっとやりたいことがあってね。いやあ、君がちゃんと見つけてくれてよかったよ。射命丸に聞いたら、大体このくらいの時間帯に君がこの辺りにいるって教えてくれたんだけれど、狙ってみて正解だったな」
「私に逢いに来たんですか?」
「それが半分。まあ、山に来るのは久し振りだからね。顔を合わせる相手が知り合いなら、こちらも心強いのさ。入山許可証の発行って今でも君達がやってるのかい?」
「あ、いいえ。たしか部署が分かれていて……案内しますよ」
「それじゃあ後でお願いしようか。そうか役割分担したのか。ちょっと面倒になったな」
「まあ、その分一人一人の仕事量は減ったらしいので……」
「減らすほどの仕事も無いように思うけれどね。ああ、ごめん。君のことじゃない」
「……いえ。事実です」

 二三言葉を交わしていると、突然、風がごうと音を立てて木々を揺らした。
「何してるんですか?」
 文さんがいつの間にか私達の輪の中に入っていた。文さんは何か変わったものでも見るような眼で、森近さんに話しかけた。
「山ではありえない光景を見ているような気がするんですけれど、これは異変ですか?」
「どうしてそうなる。真っ当に正常な日常風景じゃないか」
「だって店主さんがわざわざこんな所にまで来るなんて。日頃のカタツムリみたいな引き篭もり根性はどうしました?」
「酷いな。僕だって外出くらいするさ」
「えっと、森近さんは出不精なんですか?」
 私が訊くと森近さんはくるりと振り向き、
「そうじゃない。出歩く必要が無いから出歩かないだけだ」
 その横で文さんが呆れたように、
「基本動かないってことでしょう? それで、その動かない古道具屋さんが、山まで何をしに来たんですか?」
「墓参りをしようかと思って」
「え?」
「君のお父さんのね」

 と、森近さんは私に微笑みかけた。そこで私はようやく状況を飲み込んだ。
 ああ、そうか。この人は、友人の死の知らせを聞いたから、わざわざ弔問に来てくれたのか。
 けれども残念なことに、父には墓が無いのだ。『天狗隠し』の中に隠されてしまったから。森近さんはそれを知らないのだろう。いや、知らなくて当然なのだ。
「……お気持ちだけ受け取っておきます」
 私が言うと、森近さんは首をかしげて、
「迷惑だったかい?」
「いいえ、そんな! 父も喜んでいると思います。ただ、父のお墓って無いんですよ。というのも、亡くなった場所がちょっと特殊でして」
「特殊?」
「はい。私達の間で『天狗隠し』と呼ばれている場所があるんです。そこは足を踏み入れたら生きて戻っては来れないという場所で……父はそこで亡くなったので、遺体の回収が出来なかったんです。だから、特別お墓と呼べるような物も……」
「山の中にそんな場所が?」
「ああ、そういえば私も聞いたことがありますよ。一度入れば生きては戻れぬ、人知れず封鎖された魔の領域ってね。毒ガスとか時空の歪みとか色々噂はありますけれど、まあ、実際に見たことはありませんしね」
 文さんが私の説明を補ってくれた。森近さんは腕組みすると、困ったように、
「そんな危ない場所があるなら迂闊に山を歩けないじゃないか。何か目印とか無いのか?」
「目印……うーん、大丈夫だと思いますよ。山の中って言っても物凄く外れですから。結界との接点辺りって言ったら解るでしょうか?」
「ん? どのへん?」
 文さんが手をかざしてきょろきょろと辺りを見廻した。
「方角的にはあっちですけれど、多分、遠すぎて見えないと思います」
「あや、残念。何かのネタになるかと思ったのに……」
「……突撃取材とか、やめて下さいよ? 入ったら出れないんですからね!」
「あやや。怒られてしまいました」
 にこにこしながら、わざとらしい棒読みで言われた。
「本当に駄目ですよ? それに、行っても多分何も無いですよ。あそこには獣一匹いませんし、眼につくものといったら、犠牲になった方々の残した剣やら盾やら、あとはそうですね、真ん中に銃があるくらいで」
「遺品ってこと? うわあ……」
 文さんは顔を小さく歪めると、不意に何かに気が付いたように言った。
「椛、何だかさっきからまるで直に見てきたみたいな言い方するわね?」
「えっと、まあ、実際に見えるので」
「あ、そっか。眼がいいからね」
 納得したように何度か頷いていた文さんが、突然はっと私に振り返った。
「って! こういうの部外者に話しちゃ駄目なんじゃないの?」
「え!」
 言われて見ればその通りだ。
「……ええと、でも森近さんは父の友人だし……駄目……ですかね?」
「……駄目じゃない?」
 冷や汗が流れる。文さんと見つめ合った後、二人で訴えかけるような眼差しを森近さんに向けた。

「いや? 僕は何も聞いていないし、聞いたとしても今忘れた」
 森近さんは私達の意図を汲み取ってくれたらしい。良かった。優しい人で良かった。色々終わるかと思った。文さんがふうと安堵の溜息をついた。
「……気をつけなさいよ? 私も忘れてあげるから、椛も黙っててね?」
「はい。すみません……」
「また椛をもみもみするネタが増えちゃった」
「ええーっ!! 何ですかそれ!?」
 文さんからは笑顔しか返ってこなかった。と、そこへ森近さんが入り込んだ。
「……さて。君達が何を話しているのかは全然解らないんだが、とりあえず危険な所はかなり遠くだから問題ないってことでいいね?」
「あ! ……ええと、はい! 普通にしていたら天狗はおろか、鳥の一羽も通らないような場所ですから、心配しなくていいです。それに万が一迷い込んでしまっても、ちゃんと警備の人がいますから大丈夫ですよ」
「ああ、そうか。……うん。山に来た目的が無くなってしまったな。ちょっと花を手向けてこれる場所でもなさそうだし」
 森近さんがやれやれと肩を落とした。友人の墓参りに遠出して来て、やむなく門前払いではそうもなろう。せっかく来ていただいたのだから、このまま帰ってもらうのは娘として申し訳ない。
「……あの、森近さん、今日この後の予定はありますか?」
「いいや。珍しく一日空いてるよ」
「嘘吐け、いつだって空いてるじゃないですか」
 一瞬、文さんと森近さんが睨み合った。が、すぐに向き直った。
「ええと、それでなんだい?」
「あの、もし良かったら、父のことを聞かせていただけませんか?」

  ◇

 霖之助が香霖堂に戻ってきたのは、結局夜遅くとなった。
 霖之助と共に山から下りてきた文は、香霖堂に入るなりカウンターにべしゃりと突っ伏した。
「……心が痛い!」
「君が言うか」
 霖之助の声に文はキッと振り向くと、
「いくら私だって、あんな純真な子を騙すとなると気が引けます! 父親の話を聴いている時のあの子の顔、見ました!?」
「嬉しそうだったね。掛け値なしに」
 しみじみと霖之助が言った。
「店主さんは地獄に堕ちればいいんです!」
「なら君だって同罪じゃないか。地獄鴉にでもなればいい」
「はあ……二人で今から地獄に墜ちる準備でもしましょうか?」
「それは後でにしておこう。地獄に堕ちる前に考えることがあるだろう?」
「……そうですね。それだけの出演料貰っちゃったからなあ……」
 大きく息を吐く文の正面に、霖之助が向かい合わせに座った。

「流石、事件の被害者遺族ともなると持ってる情報が違う。ところで、椛ちゃんは嘘を吐くような子かい?」
「私もそれ程長い付き合いじゃありませんけれどね。絶対に無いと言い切れます」
「よろしい。ならば、今日彼女から得た情報は全て真実のものとして扱う。いいね?」
「どうぞ」
 文が促すと、霖之助は指を組みながら言った。
「まず『天狗隠し』に関する詳細情報を手に入れられた」
「いきなりそれが大きいんですよね。正直、椛が『天狗隠し』の場所を知っていたのは驚きです」
「でも、考えてみれば知っていて当然なんだよ。彼女の父親は『天狗隠し』に隠された最初の一人なんだから」
「記録は消せても記憶は消せませんからね」
「そう。『集団失踪事件』として情報が制限されるのは、後に被害者が増大してからだ。最初の一人は、ただの『失踪』。封鎖されるまでにはタイムラグがあった。その間、家族の椛ちゃんに何の配慮も無いってことは、天狗の社会的にありえないだろう」
「手書きのメモまで残ってますからね。当然、椛にはそういう生の情報が与えられたとみていいでしょう」
「ところが彼女は幼かった。そんな情報を受け取ったところでどうしようもない。行動するでもない。気休めにするくらいだ」
「それが幸いして後の情報操作の波に巻き込まれずに済んだ、と。まあ、多少は影響があったかもしれないですけれど」
「少なくとも弾圧はされていないみたいだね。というか、あまり希少な情報を扱っているって自覚が無いんだと思う」
「普通に話してくれましたからね」
 昼間の椛の姿が二人の脳裏に浮かび上がる。
「危ないからそれとなく見守ってあげてくれ」
「言われなくとも」
 文が答えた。

「さて、次だ。犬走が『天狗隠し』の最初の被害者だとすると、少なくともそれ以前には、天狗の社会は『天狗隠し』というものを認知していなかったことになる。即ち『天狗隠し』の歴史は、正真正銘三十年だ」
 文は口元に指を当てながら、
「例えば、犬走氏が偵察中に何か上層部にとって見られたらまずい物を見てしまって、それで消された。ってのも少し考えたんですけれど、それは無しですか?」
「怖いこと考えるなあ。うん。それは無しだ。犠牲者が彼だけだったらそれも考えていい。けれど犬走の後には、彼を探してそのまま引きずり込まれた天狗が沢山居るんだ」
「偽装工作ってことは?」
「一人の天狗の死を隠すために六十六人の天狗を殺したって?」
「ありえませんね。そんな社会だったら私は真っ先に逃げてます」
「そう。ありえない。する意味も無いしね。六十六人の内二十八名はフル装備の精鋭だ。そんな貴重な手駒を捨てるってのは、ちょっと理に合わない。素直に、本当に知らなかったと考える方が、すっと筋が通るんだ。だから事件に対する当時の対応に、何一つ不思議なところは無い」
「不思議、といえば、三十年間隠密に完全封鎖をやりとげているっての、あれ不思議でも何でもありませんでしたね。単純に、人通りの全く無い場所にあったってだけですから」
「それがどういう場所なのか、僕にはよく解らないんだけれどね。君はあの説明で凡その場所が解ったのかい?」
 小首を傾ける霖之助に、文はさも当然といわんばかりに答えた。
「解りましたよ。そりゃ、山に住んで長いですから、ぴんと来るものがあるんです。たしかに、特別な用でもなければ見向きもしない所ですよ」
「具体的にはどの辺だい?」
 と霖之助が抽斗から一枚の地図を取り出して机上に乗せた。人里を中心とした、おおよその幻想郷の全体図が描かれている。
 文は胸ポケットからペンを取り出し、山の外周裏側、結界との境界面に程近いとあるポイントに丸く印を付けた。
「大体、この辺のことです」
「遠いな」
 地図を覗き込んだ霖之助が言った。
「遠いです」
「だから、一番最初に気がついたのが千里眼持ちの犬走なんだな」
「ああ、なるほど。というより、この位置だと何か事があっても千里眼でしか気付けないんですね」
「あいつが第一被害者になるのも仕方の無いことだったのかもしれないな」

 そこでふと会話が止まってしまった。
 文は霖之助を見る。表情にこれといった変化は無いが、ひょっとすると彼は今、珍しく感傷に浸っているのかもしれない。
 椛から聞き出した情報で判明したのは、彼女の父親は天狗の社会に殺されたのではない、ということだ。これは大きい。文も不必要に身内を疑わなくて済んだ。
 では、解っていないのは? まずは徹底した情報統制の理由。本来、椛の口からぽろっと漏れるような、その程度の秘密が、なぜこうも強力に秘匿されているのか。
 そしてもう一つ。というよりも、これが肝心だ。結局全ての謎はここに集束する。

「『天狗隠し』には何があるんでしょうね?」
 文の呟きに霖之助が反応した。
「それだったら、椛ちゃんが情報をくれたじゃないか。正解かどうかは解らないけれど、極めて核心に近いやつをね」
 文は思わず目を見開き、そしてとっさに何か返そうと口を開きかけたが、何を言ったものか困ったように沈黙して、結局深い息をついた。
「……解っているんなら教えて下さいよ。ぶっちゃけ何なんですか?」
「銃だ」
 霖之助は躊躇い無く言った。
「銃?」
「椛ちゃんが言っていたろう? 『天狗隠し』には犠牲になった天狗達の残したものが散らばっている」
「まあ、実際に見た人が言うんだから間違い無いですよね。色々散らばっているんだろうなー。骨とか……」
 文はわずかに遠い目をみせた。霖之助は続ける。
「具体的なものとして彼女は、剣、盾に続けて『銃』をあげた。これがおかしい」
「どうしてです?」
「いや、剣と盾だけだったら解るんだよ。彼女も日頃携帯しているし、そういうものって目に付き易いから。ただ、三つ目に『銃』ってのはどうもしっくりこない。例を挙げるんならもっと他にあった筈だ。さっきも言っていたけれど骨とか、服の切れ端とか団扇の柄とか錫杖とか。いかにも天狗らしい遺品が散らばっていただろうに、それを差し置いて『銃』ってのはどうなんだ? そもそも天狗は銃を使わないじゃないか。つまり、目立つんだよ。その銃は」

 銃と聞いて、文の頭に真っ先に思い浮かんだのは河童である。彼らなら銃器を持っていても不思議は無いが、考えてみればただそれだけだ。わざわざ山の奥深くまで入って、立ち入る天狗を片っ端から撃ち殺す意味が解らない。天狗と河童の間に大きないさかいがあったという話は聞いたことも無い。一応、記録の有無くらいは調べてみようと思った。

「で、店主さんは、その銃を何だと思いますか?」
「解らない。ちょっと判断材料が少なすぎるね。拳銃なのか猟銃なのか? 数は一丁なのか百丁なのか? そういうので変わってくるから。実際に見てみるのが一番確実だけど、封鎖されているならそれも難しいだろう。椛ちゃんに詳しいことを聞ければいいんだけれど、そりゃ流石に無理だ」
「そうですね」
「ああ」
 仮に霖之助の言う仮説が当たっていて、『天狗隠し』の中に隠されているのが銃だとすれば、天狗の社会は三十年にわたってそれを隠し続けてきたということになり、その秘密を外側から直接見ることの出来た椛は、無自覚に王手をかけていることとなる。下手に動くと、彼女の首を絞めかねない。
「……それを抜きにしても、あんまりあの子を利用したくありませんよ」
 文が呟いた。
「随分と優しいな」
「ええ。私は優しい女です。知りませんでした?」
「それはいいことを聞いたな。じゃあ、一つ頼まれてくれるかい? 優しい君ならきっと協力してくれるだろう」
「何です?」
 にこりと笑いかける文に、霖之助は真面目な顔をして言った。
「上層部の誰かに鎌を掛けてみてくれない?」



第四章へ続く
傲慢な銃 | 【2011-03-26(Sat) 00:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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